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激白2

長めです。

「ラウルの森に行く!? ……ってお前、何言ってんだ!」


 レオにいが険しい顔で俺の腕を掴む。


 と同時に、後ろでノア先生が「そうだな、行くしかない」と冷静に言った。


 そんな娘の発言に目を丸くするルヌラ。まあ、そりゃそうだよな……。自領地にあるあの森の、異様な気配を長年間近で感じているはずの親子。その娘が突然狂ったことを言い出したのだから……。


「いよいよトトフの始動だな。アイツら呼ぶか?」とノア先生が言うと、ケレムが俺に尋ねた。


「僕も……仲間にはいれる?」


「えっ?」


 俺が驚くと、彼は少し目を細めて憂い顔で言う。


「あの時『聖なる光(ホーリーシャイン)』を通して伝わってきた、何かを背負っているような君の心の痛み。何があったのかまでは分からないけど……僕も力になれないかな?」


「ケレム様……」


「な、なな……何だと!? それなら俺も同行させて下さい! レイン様ッ!」


「「……様?」」


 ムユル達が、頭に疑問符を浮かべながらラスタに注目した。


「あっ……しまっ……いや、でもっ! もういいんじゃないですか、この際! だって全然隠してないじゃないですか、その強さ!」


 今明らかに『しまった』って言いかけたじゃん……。もはや苦笑するしかない。……まあ、でも――


「それもそうだな……」


 秘宝調査隊本部の総指揮官様に知ってもらわないと始まらない。


 俺はムユルの前に歩み出た。


「公爵様、僭越せんえつながら具申ぐしんさせていただきます」


「……何かな?」


「勇者アイテムの在処ありかについて」


「んっ……!? えっ? えええっ? 見つけたのかい!?」


「……いえ、見つけたと申しますか……『封印の書』はラウルの森にあります」


 ムユルは口を開けてしばし固まった。『何を言っているんだ?』というような表情をしている。今ひとつ信じてはいない様子だ。


「『賢者のつるぎ』も、書と共にあの森にのこっているはずです。そして……その剣は私にしか扱えません」


「えーと……それは、どういう……」


「……『賢者紋解放クレスト』」


 右手の甲に星形の紋が光る。


「現代を生きる皆さんは知らないでしょう。賢者の証――この紋を持つ者だけが賢者のつるぎを扱えるのです。剣に認められるための力であり、魔王を倒すのに必要な力――」


 ムユルは見開いた目で俺の手元を見つめながら後ずさりをした。周りが一気にざわつく中、父上は視線を落として無言のままだ。


「お前、それ……昨日も使ってたよな……」


 レオ兄が賢者紋を指差して言った。


「うん。レオ兄には昨日少し話したけど、ちゃんとは話してないから……改めて話すよ。皆さんも、聞いてください」


 俺はそこに居る全員に視線を送り、ざわつきが静まってから、出来る限り低めに真剣なトーンで話し始めた。


「私は100年前、勇者パーティーの一員でした」


「「……100年前!?」」


 一瞬でざわつきが戻ったが、続く名前に皆、息を呑んだ。


「『賢者』ラストノフ・クワイヤ。これが私の前世。私はラストノフの記憶を鮮明に持ちながら、今を生きています」


 イアンさんは顔を拭い、柱にもたれて座り込んだ。公爵はそんな彼にふと目をやり、また俺の方に視線を戻した。


 俺は話を続ける。


「……ラストノフが勇者ルカと共に命を落としたのがラウルの森です。我々の遺品は今もあの森にあります」


「……っ!? そ、それは一体!? 勇者様達がお亡くなりになったのは、カロル砂丘のはずでは……」


 公爵様相手だ。貴族として礼儀をもって話すつもりでいたけど、深く考えもしないで伝説通りのことを言うから……さすがに俺はイラッとした。


「ハァ……ったく……! 俺とルカは、カロル砂丘があるニレンズ出身だ。あの砂丘のことはよく分かってる。命からがら魔王を倒したボロボロの身体で、あんな砂丘を帰路に選ばねぇんだよ! しかもあれは夏だった。多少遠回りしても違うルートを選ぶ。当然だろ? アイツももう少しマシな嘘をつけよな……」


 突然ラストノフとしての感情を爆発させた俺を見て、ムユルは明らかに当惑している。


「カロル砂丘には慰霊碑が建ってるし、当時も捜索したんだろう。これまでも秘宝調査隊や冒険者達が何度も砂丘を漁ってる。けど、死体はもちろん何のアイテムも見つかってない……そんなの当たり前なんだよ。俺達はあそこで死んでねえし、あんたのご先祖様は死体を見られる訳にはいかなかった」


「レイン様……」


 ラスタが涙目で俺を見る。イアンさんは座り込んだまま膝に顔をうずめ、ノア先生は深くため息をついた。


「誤解のないように先に言っておく。別に子孫のあんたを責めるつもりは一切ないんだ」


 そう前置きをして、俺は――


 目の前にいるムユルに、彼の先祖であるジェラルドに殺された一部始終を語った。


 彼は絶望に打ちひしがれ、膝をついて倒れ込んだ。ケレムもふらついて、ラスタに抱き止められた。


「アンタらは知らねーだろうが、昔のラウルの森は誰でも歩ける美しい森だった。今の森の状態は……封印の書の守護者によるものだ」


「「……!?」」


 俺には分かる。ラウルの森周辺に充満する気配……あれはミュウのものだ。封印の書を守るために、力を使って危険な森に変え、敢えて人を拒んでいるんだ。


 本来はあるじの命令で書の中に戻る。だけど命じてくれる主人は死に、書とつるぎを放置できない――


 ミュウの戦いはずっと続いているんだ……。


 何日も家を空けることができなかった10歳の身。長い間、ミュウには申し訳ないことをした。でも、全て告白し、仲間と時間を得た今――ようやくあの森を攻略できる。


 俺は隣に居るハセンを見た。全てを聞いてしまった彼は混乱して泣いている。考えたくはねーけど……もしかしたら伝説の騎士に憧れていたかもしれない。俺が殺された時の生々しい話がトラウマになるかもしれない。


 すまない。……けど、お前達兄弟を救うためだ。


 俺は賢者のつるぎを手にし、勇者と共にあの少年と再び対峙する。


 いざ、ラウルの森へ――!

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