尋問
眼鏡男はワーツ・ヨーステンと名乗った。レベル46の国家魔術師だそうだ。
ノア先生によれば、ヨーステン家はスクナ領の町で代官をしている子爵家らしい。
この国の魔術師階級は5つ。下から、テーク(一般魔術師)・ルコル(中位二級)・タハト(中位一級)・リルク(高位)・アーモ(神位)。
ノア先生の階級はルコルで、ワーツはその上のタハトだ。リルクの多くは宮廷に仕える。
レベル65以上は『アーモ』(神位国家魔術師)と呼ばれる。前世の俺はこれだったが、今世ではまだアーモに出会ったことはない。
ワーツへの尋問を続けていると、ハセンが俺の手を強く握った。
「ハセン……? 大丈夫だよ。ここは安全……」
額には冷や汗が滲み、手も唇も小刻みに震えているのに、目は血走っている。複雑な表情を浮かべながら、ハセンは過呼吸気味に叫んだ。
「に、兄ちゃんを……兄ちゃんを返せーーっ!!」
「……兄ちゃん?」
「あの人達が……僕の兄ちゃんを誘拐したんだ!!」
ハセンは震えながらワーツに人差し指を向けた。
突然の展開に一同は息を呑む。
そうか、お兄さんを連れて行かれて……そんな状況じゃ、絵の練習どころじゃないよな……。それに今度はハセン自身も狙われている。
指差されたワーツは何故かやるせなさそうに、ぼそりと口を開いた。
「何で思い出しちまうんだよ……」
それを聞いたハセンはハッとして目に涙を浮かべ、ワーツは独り言のように続けた。
「俺のせいだよな……。俺がもっとしっかりと……」
どういう話の流れだ? 把握しようと必死になっていると、ワーツと目が合った……というか、彼が非常に強い眼差しでこちらを見ていたのだ。
「レイン……様……って看守に呼ばれてたな」
「ああ、うちの領内だから」
「なぁ、レイン様……」
??
「領主様のお力でかくまってくれないか。俺とその子を」
確かにこの国の各領地にはある程度の自治権が認められていて、領主の管理下に置かれた者の引き渡し請求は、たとえ王であっても簡単ではない。
けど……誘拐しておいて……? コイツのこと、信用していいのか? うーん……でもまぁ確かに、黒幕がそれなりの権力者だとするならそれが最良か?
返答を考えていると、ワーツが急に声を荒げた。
「普通さ……殺せないだろ!? そんな小さなガキ、殺せる訳がねぇ……! アイツらは狂ってんだ!! しかも今度は連れてこいって……ハッ、勝手な奴らだよ」
敵だと思っていた男が、顔を真っ赤にして怒りに満ちた言葉を吐き出している。
何となく状況は掴めた。思えば魔法陣が発動した時、わずかではあるがワーツも動揺した様子だった。ステルクに着いた時に青ざめたのは、蜘蛛のせいだけじゃない。あの若者に呼び戻されたからだ。
「あの若い男が帰還魔法陣を組んだのか?」
「……ご推察の通りだ。俺なんか足元にも及ばない。彼は史上最年少20歳で宮廷魔術師に選ばれたエダム・ウェール。現在のレベルは55、高位国家魔術師だ……」
それを聞いて軽く笑った俺を見て、ワーツが引き気味に聞いた。
「まさか……それ以上のレベルだなんて言わないよな……?」
「今更何言ってんだ。ワーツもハセンも、俺みたいな奴を探してたんだろ?」
言い当てた俺を前に揃って絶句した2人は、涙を流して無言のまま頷いた。
【魔術師階級】
○アーモ(神位国家魔術師)… レベル65以上
○リルク(高位国家魔術師)…レベル50以上
○タハト(中位一級国家魔術師)…レベル45以上
○ルコル(中位二級国家魔術師)… レベル40以上(国家試験)
○テーク(一般魔術師)… レベル35以上(資格試験)




