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クスト広場

長めです。

 スコットギャラリーがあるスニ通りを抜けて大通りを渡ると、第4治療拠点・クスト広場に到着した。


 美術館や庭園と共に整備された広い空地は、様々な催しや集会に利用されるが、今は無数のテントが張られていて医師と看護師が慌ただしく動いている。


「こんにちは。医療団です」


「えっ、こど……。あっ、ありがとうございます!」


 受付の人、今子供って言いかけたよな……。


「光魔法使い4名と中位二級ルコル1名になります」


「私は看護師のアミンと申します」


「あ、どうも。僕はレイン・ローネストです」


「え!? ローネストってあの!?」


 アミンさんが指差す先には美術館の入り口。父上の壁画が飾られている。


「ああ、はい。父の絵です」


 って……ん? 隣に居たはずのエミリアが居ねえ!


「お待ちください、お嬢様ぁ〜〜!!」


 興奮して美術館の方に走って行くマテオ作品狂を、イユさんが追いかけている。アイツの付き人って大変だな……。


 とりあえずエミリアはほうっておいて、現在の状況をアミンさんに教えてもらおう。


「現在の受け入れ状況は?」


「500名くらい居ます。大半は軽症者で、身体のだるさを訴えています。症状が重めの方は現在31名。皆さん呼吸器症状があります。ポーションや薬草茶で対応していますが、一時的に症状を抑えるだけで根本の治療には至っていません……」


 瘴気による特殊な炎症だからな……完治には魔法しかない。全部で500人か。それだけの人がここに集まっているなら……


「まずは一旦、空間浄化をしたいな。軽症の人はそれで回復するかも」


 そう提案したところで、ケレムが確認をしてきた。


「この広場の中だけなら低級で十分だよね? それなら僕がやるよ」


「ケレム様、助かります」


「『小域エリア・浄化ピュリフィケーション』!」


 ケレムの光魔法によって広場中が光り輝く。さすが本物がはなつ空間浄化の美しさに見惚みとれてしまった。


「だるさ程度なら、きっとこれで回復しているよね」


「そうですね」


 皆と進め方を検討し、浄化後の軽症者の様子を改めて確認するように現地スタッフにお願いした。元気になった人はそのまま帰宅、まだ処置が必要な人には、レオにいとテラお付きのエルフ達が個別に回復ヒールをかけていく。


「おーい! エミリア、イユさーん!」


 2人を呼び戻して、俺達は重症者の対応だ。


 重症の31名をアミンさん達が更に状態ごとに分けて、目印をつけてくれていた。彼女達が優秀なのか、公爵がここまで指示を出していたのか。いずれにせよ、平和ボケせずに平時から鍛練を積んでいて、何と素晴らしいことか。


 目印に従って担当患者を割り振り、光属性以外の上級回復魔法でも治療可能な患者はノア先生にお願いする。


 俺の本来の属性ではない光魔法。残念ながら前世も今世も、生まれついてこの属性は得られなかった。無理矢理使っているから普段の倍以上の魔力を消費する。


「テラ……魔力を頼む……」


「おまかせください! レイン兄さまっ!」


 俺はテラとユルゴスに魔力を補給してもらいながら、上級と中級の光魔法で7人対応した。なかなか骨が折れる……。


「このテントで最後です」


 アミンさんの誘導で、11張り目のテントに入る。


「あっ、ケソンさん」


「あんたは確かマテオ様の……」


「はい、四男のレインです。おばあちゃん、どうですか?」


「元々気管支が弱くてね。昨日あれから咳が止まらねぇ。さっきの光で多少は呼吸が楽になったっぽいけど……」


 おばあちゃんは咳込みながら、ぐったりとケソンさんに寄りかかっている。娘さんの方は比較的軽症で、別のテントに母親と一緒に居るそうだ。


 ――『千里眼』


 耳や手で呼吸を確かめるふりをして千里眼を使う。なるほど……気管支が少し炎症をおこしてるかな。高齢だから回復が遅くて苦しそうだけど、状態的にはこれまでの7人より軽い。


「肺までは達していないと思うので、心配いらないですよ。光魔法をかけますね」


 部分的だしそこまで重くないから、低級で十分だろう。


「遥か彼方の神々よ、癒しの光で我が手元を照らし給え――『癒しの光(ヒーリングライト)』」


 おばあちゃんの胸元をまばゆい光が包む。


 息苦しさが落ち着いてきたおばあちゃんは、身体を起こして必死に何かを訴え始めた。


「あの子……あの子は……」


「あの子? お孫さんですか?」


 俺の質問におばあちゃんは首を振り、「ハセン」と答える。


「ああ……」


 おばあちゃんの訴えを理解したケソンさんが説明してくれた。


「以前うちの店に来てくれてた子供が居てね。まあ来てたって言っても彼はスラムの子で……うちの商品を買う金はなかった。ボロボロのきったねぇ服着てさ、いつも外から店内を眺めてんだ。正直俺は鬱陶しく思ってたんだけど、母さんは可哀想だって言ってよく話しかけてた。……で、その子の誕生日! 母さんが店主の俺に黙ってクロッキー帳とペンをタダであげたもんだから、あん時は親子喧嘩しちまって……」


 親父も昔、月謝が払えない近所の子を弓道場に入れてあげたことがあったなぁ……。


「何日後かにそのクロッキー帳持ってきて、描いた絵を見せてくれてさ。すっげぇ上手いのよ。俺もコイツに何かしてやりたいって思った矢先、先月からぱったり来なくなってよ。絵に夢中になってんなら別にいいんだ。だけど心配でさ。何かあったり倒れたりしてねえかって。……そんな時に今回の災害だ。政府はスラムまでちゃんとケアしてくれるのかな……」


 スコットさん、ケソンさん……。自分達も大変な中で、皆他人(ひと)の心配をしている。アミンさん達病院スタッフも素晴らしいし、本当にいい町だな……。


「ハセンって言う8歳の少年だ。頼む、スラムも見てきてくれないか?」


「この後、スラムにも行きたいと思ってるんです。任せてください」


「ありがとうな。……ところでよ、あんたは画家にはならんのか? そりゃこんだけ魔法の才があれば、こっちの道で引く手あまたかもしんねーけど……。俺の店に来たときも画材について質問したり興味持ってくれてたし、マテオ様も兄ちゃん達はアレだからって、末っ子のあんたに期待してたぜ?」


 ……! 父上が?


 次男レオにいと三男レリド兄の喧嘩コンビは、アートに全く興味がない。長男のレセ兄は、昔はよく絵を描いていたような覚えがあるけど、数年前から全然描いていない。レセ兄は将来領主を継いだときに両方こなせる器用なタイプじゃないと俺も思うけど……それを自分でも分かっていて、絵に没頭することを避けている感じがする。


「僕の絵は……可もなく不可もなくって感じなんです……。父みたいな宮廷画家はとても目指せません。でも何かしらの形で、アートには関わっていきたいと思ってます。どんな風にかっていうのはまだ分からないけど……」


「そうか。その挑戦、応援するよ。忙しいとき、辛いとき、アートは心の糧になるから。また店にも来てくれな」


「はい! また、ぜひ!」

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