小さな命
「そうか、医療団としてビフィカまで来てくれたのか」
「はい。スコットさんは昨夜、大丈夫でしたか?」
「僕ら夫婦は大丈夫だけど……」
店先で立ち話をしていたら、俺達の声を聞いて顔を出した奥さんに声をかけられた。
「レイン様、少しよろしいでしょうか? あの……この子……」
上向きに合わせた彼女の手のひらに横たわる小さな身体。
「小鳥? あっ……」
両目は苦しそうに閉じかけ、もがいたのだろうか、羽根が擦り切れている。
「もしかして昨日ので?」と尋ねると、ご夫婦は辛そうに頷いた。治療拠点は人間対象だもんなぁ……。
「僕は貴族なのに、ろくに低級も使えないから……」とスコットさんが肩を落とす。
「回復なら俺やりますよ」
レオ兄が小鳥に手をかざす。
「『回復』!」
小鳥はゆっくり起き上がると、元気にピィピィと鳴いた。
ご夫婦に泣きながら感謝されたレオ兄は、照れくさそうにしながら俺の両頬をつまむ。……って、えー。何で俺つままれたの……。
「お前はどうせこの後また無茶するんだろ? だから簡単なのは俺らがやるから」
頬をつままれながらレオ兄の言葉に頷く俺。ラスタ達も頷いていた。
優しいこと言ってくれてるけど……長い、痛い! 喋れないんですけど……。俺はレオ兄の手を強引にどけて、スコットさんに尋ねた。
「あの小鳥って、スコットさんがよくモデルにしてる子ですよね? サインにも描いてる……」
「うん、そうだよ。名前はポポ。風景画とかも好きだけど、ポポの可愛い姿を描くのが一番楽しいんだ」
笑顔でそう話すスコットさんを見て、助けられてよかったと皆で微笑み合った。小さな命を救えて本当によかった。
「レインくん、そろそろ行きますか」
ラスタに促され、地図を見る。
「えーと、拠点のクスト広場は……これか。ここから1kmくらいかな。すぐ着くね」
場所を確認していると、スコットさんが「スニ通りを抜けてちょっと行ったところにあるよ」と行き方を教えてくれた。
「……あ、レインくん。うちの向かいのケソンがね、娘さんとおばあちゃんの具合が悪いらしくて、さっき広場に向かったよ。よろしく頼むね」
ケソンさんは画材屋さん。手漉きの紙やオリジナルの絵の具とか面白いものが置いてあって、わくわくするお店だ。
末っ子のポーラとおばあちゃんか。お年寄りも心配だよな……。
「了解です、スコットさん! 俺達に任せてください! では、行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
手を振り数歩進んだ時、後ろでご夫婦が話しているのが聞こえてしまった。
「レイン様、何だか男らしくなりましたね」
「だね。マテオも手紙に書いてたよ。アハハ」
……!? うわぁ、父上に何て書かれたんだろ……。




