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出発前

改名しています。

レオナルド→ジェラルド

 屋敷に戻るとすぐ、ムユル公爵に出くわした。柔和に微笑む雰囲気はケレムに似ている。


「お早う、レインくん。ちゃんと休めたかい?」


「あっ、はい」


「それなら良かった。医療団なんだが、光魔法使い3人と看護師2人を手配した。取り急ぎで申し訳ない。国からの救援があれば、すぐに追加で向かわせる」


「ご協力に感謝いたします!」


「……」


 公爵は急に無言になり、真剣な表情で俺を見た。


「えーと……何か……」と尋ねる俺に、公爵はわざわざかがみ、目線を合わせて言った。


「君は勇敢な救世主。まるで勇者のようだ」


 !!


 目の前の翡翠色の瞳に吸い込まれそうになる――。


「居た居た! 良かった!」


 ラスタが息を切らしながら駆け寄ってきた。ずっと探してくれていたようで、何だか申し訳ない。敷地には結界を張ったとは言え、警護対象に探されるなんて護衛失格だな……。あ、レオにいも走って来た。


「朝起きたら居ないから、心配したんだぞぉ〜!」


「レオ兄ごめん。早く起きちゃったから庭を散歩してたんだ」


「庭や門の辺りも探したんですがね……」と首をかしげるラスタ。「まあ、ご無事で何より。そろそろ朝食の時間ですから一緒に行きましょう」と言って俺を食堂に誘った。


 そんな俺らのことを公爵がじっと見ている。何を思っているのか、大体見当はつくけど。公爵令息のラスタ様が、伯爵家四男のちびっ子に敬語なんて、そりゃなぁ……。俺だって困ってんのよ。


 食堂に入り、メイドの案内で着席したところで、公爵が話し始めた。


「さて、食べながら聞いてくれ。昨日は皆に色々と心労を与え、申し訳なかった。今日もいつもと変わらない朝を迎えられたのは、ザラス伯爵家四男レイン・ローネスト卿のお陰だ。公爵家一同、心より感謝する。確かソフィアも面識はあったな?」


「はい、お父様。以前貴族院に来て下さいましたわ」


 ラスタ達の妹・公爵令嬢のソフィアだ。落ち着いていて、お嬢様って感じだなぁ。ご令嬢って普通はこうだよなー。


 タテス公爵家の人々は、ジェラルドに似た金色の髪とティアのような翡翠色の瞳を持つ。目元はラスタが一番ティアに似ているが、全体の雰囲気は同性の彼女がとてもよく似ている。


「今日も彼は息子達と共に王都内を回ってくれる。頼んだよ、レインくん」


「はい。お任せください」



 ◆ ◆



 食事を終えてロビーに行くと、ノア先生達や医療団メンバーが集合していた。


 看護師2人はこの屋敷の使用人で、小柄な男女の双子だ。とても優秀だと聞いている。なんかさっきから兄妹ゲンカを繰り返しているけど……。


 光魔法使いはイアンさんの弟のイユ、冒険者の青年カナテ、それから――


 見覚えのある乙女色の髪。


 ……は? B組のエミリア!?


 思わず後ずさりした俺に、彼女が近寄ってくる。


「本当に居た……レイン・ローネスト……」


「な、何で君が……」


「私……地元がタテス領。お祖父ちゃんに頼まれた用事で帰省してたら、家に連絡があったの……。あなたが居るって聞いて……来た」


 あー、もう最悪だ。何で俺が居るからって来るんだよ! 俺に対してあんなに失望してたくせに意味分かんねえ……。い、いや……魔法では良いところを見せられるはず! 今日は医療団リーダーとして強気に行かねば。


「あっ、ああ……今日の医療団は俺が率いるんだ。ところで君、ファミリーネームは?」


 学校で会った時はパニックで、フルネームを聞いていなかったんだよな。


「……フランツ」


「えっ……? あのフランツ家?」


 平民の一族だが、魔法医療用品の開発で有名な業界最大手だ。100年前はまだ小さな薬屋だったが、その頃から質の高さで評判だった。光魔法使いが多い家系で、開発スタッフにも光魔法使いを多く雇用している。


「すぐに出発できるのが、私とイユだけだったの……。また後から……何人か来てくれると思う……」


「イユさんってまさか……フランツのスタッフ!?」


「はい、そうでございます。エミリアお嬢様と共に王都の危機に馳せ参じました! と同時に、兄からレイン様をお守りするよう仰せつかっております!」


「あ、あの、イユさん? そんなにかしこまらなくていいですよ」


 本当に最悪すぎる。こんな形でエミリアと繋がってしまうとは思わなかった……。今後学校でも無視できねーじゃん……。


 作り笑顔で必死に対応していると、親父がやってきた。


「おー、イユ! 今日は坊ちゃんを宜しくな!」


「兄さん! 任せてください!」


 ハァ……もうやだ……。



 ◆ ◆



 公爵が夜のうちに王都各地に状況を確認し、指示を出してくれた。光魔法使いが不足しているエリアをリストアップし、効率よく対応できるように、症状がある人達を治療拠点に集めてくれているという。


 俺はそんな公爵の仕事ぶりに心底感心していた。昨夜公爵は俺に「まるで既に一人前の領主のようだ」と言ってくれたけど、そんなこと……。俺なんか全然だ。千里眼があるとは言え、準備もそこそこに一刻も早く出発したいと思っていた俺は、きっと闇雲に突っ走ることになっていただろう。


 そもそも昨日の戦い方だってそうだ。回復ヒールや光魔法を掛けてくれる人達が居なかったら、俺は死んでいたかもしれない。


 自分で何でもできると過信している愚かな人間だ。100年前だって、もっと違う道があったんじゃないか……??


 そんな思いを巡らせていたら表情に出てしまっていたのか、親父が俺に言う。


「レイン……不安か? イユは頼れる奴だ。俺が保証する。お前の兄貴も先生も居るんだから、大丈夫だ」


「うん」


 ノア先生が来てくれたことは本当に心強い。


「何かあればすぐに連絡しろ。一人で抱え込むな」


「うん、ありがとう。行ってくる!」

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