闇をまとう少年
屋敷の門の向こうから、一人の少年がじっとこちらを見ている。
「この魔物を喚んだのは……お前か?」
年齢はラスタくらいだろうか。顔立ちは端正で、金色の髪と琥珀色の瞳。服は汚くボロボロで、周囲にはうっすら瘴気が漂う。
「お2人は俺のそばを離れないでください!」
俺はラスタとケレムを背後に隠した。あの瞳と髪の色。狙われている公爵家。ヤツこそが追うべき存在だと直感で感じる……
ケレムの『聖なる光』を浴びたおかげなのか、不思議とキレる気持ちにまでは至らないものの、それでも俺は結構イライラしている。
公爵家を狙うだけじゃなくて王都全体をも巻き込むとは、いい度胸してんじゃねえか。受けて立ってやる。
そんな決意をした瞬間――
「「あっ!!」」
チッ……転移しやがった!
俺達の存在が想定外で逃げたのかもしれない。恐らく俺達が居なかったら……この混乱に乗じてラスタもケレムも殺られていただろう。
「……!! ところで、公爵様はっ!?」
「私はここに居るよ。周辺領地や各部隊との連絡もついたし、ギルドにも応援要請済みだ」
声の方に振り向くと、公爵ムユルとその護衛が立っている。無事で良かった……。
「『近くに居るように』と矢文が届いてね」
「や、矢文……。何か嫌な記憶が……」
前世の子供時代、叱られて部屋に篭って泣いていたら、『今日はメシ抜き』という矢文が飛んできて更に大泣きしたことを思い出した……。
今思えば、それも幸せな時間だったな。ジェラルドに壊された”日常”――。
もうこれ以上、壊されてたまるか。
――『千里眼』
よし、外にはもう魔物は居ない。王都中に居た魔物を黒炎輪に集めることができた。
親父は「集めたら気持ち悪ぃ数だなぁ……」とげんなりしながら俺に言う。
「俺達は詠唱が必要だから、レインは少し待ってタイミングを合わせてくれ」
「いや、俺も一緒に詠唱するよ。攻撃速度や連続性を重視して詠唱破棄してるだけで、本来はしっかり詠唱した方がパワーは強いんだ。みんな、準備はいい?」
親父、ラスタ、ケレム、レオ兄が頷く。
「それじゃ『水牢』、いくよ!」
「「乾いた大地に鱗片が舞う。地を這い切り裂くは龍の戯れ。捕らえよ水の鎖――『水牢』!!」」
波打つ水撃は、まるで命を吹き込まれた龍のように魔物達を囲い込み、捕縛していく。
「ケレム様。俺があなたの手に触れたら、
『聖なる雫』を共に詠唱願います!」
「分かった」
ちょうど到着した応援の魔法使い達が、さらに牢を強化してくれた。
今だ!!
「賢者の星よ、我に光の力を――」
俺はケレムの手を取る。
「「遥か彼方の神々よ、その聖涙で我らの魂を清め給え――『聖なる雫』!」」
水牢の中心に一滴の雫が落ち、溢れる水は聖水となった。




