危険な餌
「さて、ここからどうするか。一旦瘴気を祓ったとは言え、この魔物共を倒すには魔法一択であることに変わりはない。……だが、もう上級魔法は使うな。俺だってそう何度も回復してやれん」
「そう……だ……よね……」
気まずい……。上級魔法よりヤバイのやろうとしてるんだよなぁ……。それに、どういうテンションでこの人と話せばいいのか分かんねえー!! 向こうも何か微妙にいつもと違うし! あの頃の俺よりも若い親父、10歳の子供の俺、隣には何も知らない兄が居る……。ハァ、意味不明な状況だ。
「しかし、王都中とはな……」
「お、親父っ……。中級を一緒に放ってくれないか? 同時詠唱は、魔力の相性がよければ威力が増す。勇者と賢者がそうであるように……。俺達は、魂が呼応するはずだ」
「さすがの経験値だな。了解だよ……ラス」
親父の言葉を聞いた俺は、自然と顔がほころんだ。
“ラス”――そういえば、小さい頃はそう呼んでくれてたよな。……10歳のまま、これまで通り甘えてもいいってことか? そう思っとくよ。
「王都中の魔物を餌で誘き寄せ、『水牢』で捕らえる。アイツらは土からパワーを得ているんでしょ? だから囲い込むと同時に、水の膜で地面から離したいんだ。その後、牢屋の水を聖水化し、トドメは『電爆』だ」
『“毒矢”のイアン』が魔法矢を選択した理由――単純に敵数の問題、瘴気の飛散防止、の他にまだある。土からパワーを得てる魔界生物に対して、毒が有効じゃなかったんだ。
「レイン。中級なら俺達も一緒にやらせてほしい。俺とラスタ様は水魔法、ケレムは風魔法。俺らの魔法の威力なんて微々たるもんだろうけど……弟にばっかやらせる訳にはいかねえよ」
「レオ兄、ありがと」
「で、餌っていうのは何なんです?」
「……」
ラスタの問いには答えられない。答えたら確実に止められる。……んまぁ、こんな特殊な工程、見たら大体想像つくとは思うけど――
俺は亜空間からナイフと魔石を取り出し、杖で魔法陣を描き始める。
うーん……さすがに黙ってやるのはマズイか?
「悪ぃ、親父……」
「ハァ……。バカ息子が」
「あんた何者なんだ……俺には全然分かんねえよ……。つか、レインっ! それはやめろ!」
レオ兄には本当に色々申し訳ない。誰よりも混乱してるよな……。
っていうか、黙々と魔物を倒しまくっているケレムはやっぱり何かすごい。俺達は今、ケレムのおかげで周囲の魔物を気にせずに話ができている。
「レオのことは任せて。それに……何かあれば、ちゃんと呼び戻すから。でも、無理はしないで」
話もちゃんと聞いてたんだ……。
「ケレム様……ありがとうございます」
そうだ、この人は……光属性を持ってる。
大丈夫。賢者紋の加護もあるし、何とかなる。魔界生物を引き寄せるために、やるしかないんだ。
「……痛ッ」
ナイフで手を切り、魔法陣の中心に置いた魔石に血を垂らす。
「今ここに結びし血の契り。昏き世へと我を導け。黒炎の舞い――『黒炎輪』!」
立ち上る漆黒の魔界の炎。渦を巻き、爆風が吹き荒ぶ。
「うああああああッ!!!」
熱い……。身が焼かれるような感覚……。
「ハァッ……ハァッ……ああっ……」
魔物達が集まり始めている。
もう少しだ……。後は魔法陣の一部となってしまっている俺自身を切り離すだけ……。
持って行かれたりなんか……絶対にしねぇ!!
あと一言……ちゃんと俺を閉じろ……。
「レインくん! 戻って!!」
!? ケレムが俺の手を握ってる……
「遥か彼方の神々よ、たゆたう光を我が元に。彼の者を守り給え――『聖なる光』」
ああ、優しい光に包まれる……。
「……『契約解除』」




