運命の輪廻
この瘴気ってどこまで拡がってるんだ?
全てを見通す賢者の眼。この能力は生まれつきのものじゃない。努力の成果だ。
――『千里眼』
「もう王都全体が……」
小さい子達はすでに危ないかもしれない……。俺も身体の末端が痺れ始めた。
「ハァ……ハァ……」
「レイン、大丈夫か!? 『回復』!」
駆けつけたレオ兄が回復をかけてくれる。
「低級しか使えなくて悪いな。とりあえず俺に任せて休め! ラスタ様のことも任せろ」
「大分楽になったよ。レオ兄、ありがとう。でもね……やらなくちゃ……。『賢者紋解放』」
俺の右手に星形の紋が光り輝く。
「お前、何だそれ……」
不安そうに俺の肩を抱くレオ兄から目を逸らし、静かに目を閉じる。
上級以上の魔法は15歳まで使用禁止だ。身体がもたないというのがその理由だ。一度試してみようとして死にかけたから、身をもって分かっている。
だから賢者紋の力で身体を強化するんだ。それに光属性は先天性だからな……賢者紋なしでは使えない。
雑念を取り払い心身を落ち着かせて、大切に言葉を紡ぐ。
「賢者の星よ、我に光の力を――」
「レイン、お前が詠唱するなんて……。しかも聞いたことのない……」
賢者紋に光の魔素を集め、光魔法の詠唱に移る。
「遥か彼方の神々へ、清き心を捧ぐ。聖なる光をもって我が願いを叶え給え――『聖なる浄化』」
神秘的な光が降り注ぎ、広域に浄化作用をもたらす上級魔法だ。
黒い瘴気が消えていく。魔物達も少し弱ったように見える。
「よかった……効いてる……」
俺はそのまま倒れ込んだ。
「おい、レイン! 10歳のガキが何やってんだよ! 今の上級じゃねえか! しかも何で光魔法……」
レオ兄の声が遠くなる。紋のおかげで死にはしないけど、クラクラする。まだ上級魔法を使わなきゃいけないのに、力が入らない……。
何とか這いずって起きあがろうとしていたその時、背後から詠唱が聞こえた。
「空を舞いし水の精。一縷を紡ぎて珠と成す――『上級回復』」
!?
「坊ちゃん、お前は本当に……」
「そ、その声……イアンさん……?」
「お前はどうしてそう……! いつもいつも!! 死にたいのか!?」
「そんな……こと……」
何でそんな恐くて優しくて泣きそうな……複雑な顔すんの?
「息子よ……もう俺の前から消えないでくれ……」
「??」
「お前にとって因縁があるはずだぞ。この家にはもう関わるな!」
「な……なんでそのこと……」
イアンさんが大粒の涙をこぼして、回復した俺を抱きしめている。
弓使い……? ははは……そんなまさか……。
「親父……なのか……?」
「今度は……俺より先に逝くことは許さないからな、ラストノフ」
「うああああああーーー!!!」
俺は息を切らすほど泣き叫んだ。
別れを言えなかった家族。今までずっと近くに……。
「まさかあの死にかけた時、回復薬を届けてくれたのって……」
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