長男ラスタの追及
「失礼する」
「兄上……」
「長男のラスタ・スミスだ」
「……ティア?」
彼の目元があまりにもティアそっくりで、思わず呟いてしまった。
「あっ、えっと……レオの弟で……ローネスト家の四男レイン、10歳です」
さっきのが聞こえていたのか、ラスタは不審な目で俺を見る。
「貴様、何を探っている」
「兄上、貴様って……! レインくんに失礼だよ!」
あ、ケレムって大きな声も出るんだ。いつもボソボソ喋ってるから……。
「僕達さ、実は父上の話を聴きに行ったんだ。そこで父上が襲われそうになったから、レインくんは心配して聞いてくれてるんだよ! 僕の安全を考えて、転移魔法でローネスト家まで逃がしてくれたんだ」
「父上が!? 犯人は!?」
「未遂に終わったから、父上は無事だよ。犯人は矢で撃たれて捕まった」
「……そうか」
ラスタはまだ俺を警戒しているのか、じっとこっちを睨んでくる。
「ギルド前からローネスト家まで結構ある。それを3人分の転移魔法だと? その歳で?」
「あー、こいつの魔力量、異常なんすよ」
レオ兄がゆるいフォローを入れてくれたが、ラスタは無表情でスルーして話を続けた。
「殺人未遂があった恐ろしい現場で、咄嗟にケレムを連れて逃げるという判断力。本当に10歳か? 一体何者だ?」
まずい。面倒な奴の前でしくじった。
「いやだなぁ〜ただの一年生ですって。アハハハ……何ですか、その質問〜」
「それにさっきの……確かに俺に似ているが、名や肖像は一切公表していない。もう一度聞く。お前は何者だ? 何故、我が一族を探っている? 誰の指示だ!!」
――『虚室』
俺は、自分とラスタだけを亜空間に転移させた。
白い壁にテーブルが1台、椅子が2脚だけ。ドアもない、閉ざされた異質の空間だ。
「!? なっ、何だ、ここは……!?」
「ハァ……。アンタがしつこいんでね。まぁ俺のミスなんだけど」
俺はテーブルに肘をつきながら、気だるく答えた。
「貴様、さっきとまるで別人じゃないか。やはりただの子供ではないということか……」
「レオ兄とケレム様の前では、ただの子供で居たいからさー、今から聞くことは黙っててくれるかな? 誰かに話したら、俺、何するか分からないからね。スミスの名には恨みもあるし」
「……恨みだと?」
「ああ。けど、別にアンタら子孫のことまで憎んじゃいねぇ。恨みがあるのはジェラルド・スミス。アンタの曽じーさんだよ」
「な、何を言っているんだ……?」
「俺は、賢者ラストノフ・クワイヤの生まれ変わりだ」
「……は?」
「この空間こそが証明だよ。俺の魔術は最強だ。お前の読み通り、中身はただの10歳じゃない。ご名答じゃねーか」
ラスタは結界のような空間を、改めてきょろきょろと見回した。
「ついでに良いもん見せてやろうか?」
――『賢者紋解放』
俺は右手の甲に、魔法陣のような星形の賢者紋を浮かび上がらせた。
「手に紋章……光ってる……」
「『賢者紋』って言って、魔王を倒すのに必要な印だ。俺はな、100年前に魔王を倒した前世の記憶がある。お前の先祖達と旅した記憶も、ジェラルドに殺された記憶も……」
「……殺……された?」
「賢者の俺と勇者ルカはなぁ、テメェの先祖ジェラルドに殺されたんだよ! ルカは聖剣を託してなんかない。アイツに奪われたんだ!」
「ハ……ハハハ……」
「何だよ、その乾いた気味悪ィ笑いは……。そりゃ、先祖の伝説を汚す話、にわかには信じられないかもしんねーけどよ」
「いや、信じるよ。……成程な。そんないわく付きの血じゃ、こうなるのも当然だな」
「……やっぱりお前、公爵家が狙われてることについて何か知ってんだな?」
「狙われてるも何も……一族内での殺し合いですよ」
さすがの俺も言葉に詰まった。
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