狙われた公爵
そんなにギューっとしないで……。いつも抱きしめ方が強いんだってば!
これは俺の2番目の兄、レオ・ローネストだ。
3人の兄達はみんな、末っ子の俺にめちゃくちゃ甘いけど、レオ兄は特に愛が重い。
てか、いくら頭が良かろうが、知らない言語はどうやったって読めないから! 多少でも似ている部分があれば推測のしようもあるけど……ルカの本に並んでいた文字は、この国の言葉とは似ても似つかなかった。古代文明の解読レベル。
最近ふと思う。
勇者って……転生者だったりして……。
俺は同じ国にもう一度生まれたけど、ルカの前世はどこか遠い遠い国だったのかな? その国の言葉なのかな?
それとも……そんな記憶なんて全く関係なくて、あの本を前にしたらなぜかフッと読めてしまうのが勇者なのか――
いずれにせよ、勇者とはやはり……説明の付かない不思議フシギな『運命』で決まるものだな。
そういう意味では、レオ兄はいつも飄々としていて、「あ、読めちゃった♪」なんてこともあり得そうなキャラだ。
そんな何でもありな感じのレオ兄は……まさかの公爵家の次男を親友にしやがった!
今日も一緒に聴きに来ている――彼はタテス公爵家次男のケレム・スミス。ふんわりした髪に甘いマスク。
幸いとても良い人なんだけど、流石はレオ兄の親友だなって感じの厄介さがある。ほわっとしているくせに変な度胸があって……行動が読めない。俺はよくこの2人に振り回されている。それは今日もだ。
公爵は少し過保護なのか、「また魔物の襲撃があるかもしれないし、危ないから聴きに来るのはやめなさい」って言っていたらしいんだけど……あーあ、来ちゃってるし!
彼らは良くも悪くも“自由人コンビ”で……まぁ、気が合うんだろうな……。
俺はそんなことを思いながら、レオ兄の腕の中から2人を見上げていた。
その時――
ドサッ……
鈍い音がした後、前方の女性冒険者達の悲鳴が響き渡った。
「何? 何があったの?」
「父上が……」
「ケレム様?」
デカい大人達に埋もれてよく見えない……。
――『千里眼』
賢者の能力を使って視えたのは、慌てて退避するムユル公爵と、彼が立っていた壇のやや手前に倒れている男性の姿。
そして、男性の右手にはナイフ。
……公爵が襲われかけた?
犯人の肩に矢が刺さっている。殺さずに、でも逃げられないように。正当防衛だと証明できるギリギリまで待ち、かつ、危なげない位置できっちり仕留めている。全て完璧だ。
そりゃ公爵ともなれば、腕利きの護衛を雇っているだろう。それにしても……こういう事態を想定していたかのような超ハイレベルな狙撃手の配置。
『危ないから聴きに来るのはやめなさい』――?
クソッ……何が魔物の襲撃だよ……!
「ケレム様、あなたもこの場を離れた方がいい」
「……!?」
レオ兄とケレムの手を取り、俺は転移魔法を発動した。




