最弱末弟と優しい兄達
アリタルテ王国ザラス領・パルムの町。
領主である伯爵家の屋敷では、今日も兄達による末弟争奪戦が繰り広げられていた。
「ふえぇぇ……」
自邸の庭で涙目になっているのはレイン・ローネスト。3人の兄達から愛されまくりの一家の末っ子ボーイ。甘えん坊の4歳半だ。
レインの目の前にはラビーズが一匹。彼は恐怖で完全に腰を抜かしてしまっている。
ラビーズは小さなウサギの魔物。暴れたり噛み付くこともあるが、それはかなり稀だ。子供でも簡単に倒せる魔物で、日常的によく見かける。
近くの建物に隠れて揉めているのは、レインの4歳上の兄・レオと3歳上の兄・レリド。臆病な弟を助けるのは自分だと言ってお互いに譲らない。
「俺の可愛い可愛いレインくんが怯えているぅっ!! 助けなければっ!」
「レオ兄。レインを助けるのは僕だからね」
「俺が先に来たんだからな! 譲らねーよ!」
「だったら今まで何してたんだよ」
「少しは強くなってもらわないとっていう兄心だ」
「うーん……まあ、ラビーズだしな……」
兄達はいつでもレインを守り、彼のヒーローになりたいと思っている。兄達は幼い弟のことが可愛くて仕方がないのだ。――とは言え、弱々しすぎるレインを見ていると、そろそろラビーズぐらいは……とも思ってしまう。
すると、
「ブヘ〜〜ッ」
ラビーズが普段とは違う、気持ちの悪い鳴き声を上げた。
「なっ……! あのラビーズ、レインのことを馬鹿にしてやがる!」
底辺の魔物にさえ馬鹿にされる弟の将来を案じながらも、ここはチャンス! 兄達は我先にと飛び出した。
「水球!!」
「火球!!」
レオとレリドがほぼ同時に魔法攻撃をすると、ラビーズは「キキーーッ!」と鳴いて消えた。
「よっしゃー!」
「楽勝っ!!」
軽々とラビーズを倒した兄達は満足そうにポーズを決めていたが――
ドサッ……
「レインっ!? おい、しっかりしろ!」
「レオ兄……。レイン、すごい熱だよ……」
二人の目の前で倒れたレインは、そのまま意識を失った。