魔法矢
イアンさんは小さな水球を空中に浮かべると、それを魔法矢で射抜くようにアシュに言った。
「『魔法矢』!」
アシュの魔法矢は見事命中したが、イアンさんは物理矢の時のように誉めることはなく、淡々と話した。
「なるほどね。当たりはすれども、って感じだな。物理も魔法も同じ弓矢だ。それを忘れるな」
イアンさんの話を聞いて、俺は思ったことを率直に口にした。
「アシュは魔法に頼りすぎてる」
「ああ、その通りだ。もしパーティーだったら……その感じの魔法矢じゃ、ちょっとなぁ……」
俺とイアンさんの言葉に、アシュは明らかに落ち込んでいる。そんな重くなった空気をレガードが切り裂いた。
「難しい話してんなー。オレなんかあんな小さい的、そもそも当たんねえけどなー」
「レガードは思い切りドカーン!って破壊する系だもんね! アハハ!」
「笑うなよ! ったくお前はいいよなあ〜、何でも高レベルで」
「そんなことないよ。俺もさ……『普通』なんだよなぁ……」
全員が首を傾げる。
「俺の絵。個性のない、ふつーの絵なんだよ。さすがにあのエミリアって編入生に言われたみたいな、『ヘタクソ』だとは思ってないけど。あれは傷ついたわー」
「あっ、ああ……あれな……」
レガードが気まずそうに苦笑する。
「まーまー、少年達よ! こんくらいの年頃に一度挫折すんのも悪くないと思うぜ」
イアンさんに肩を叩いて励まされ、「俺もそう思う」と答えた。実のところ、今はもう宮廷画家にこだわってはいない。芸術自体は生涯探求していきたいと思っているけど、何か別の形があると思うんだ。賢者の俺にしかできないアートが。
「さて、と。じゃあアシュくんよ。これは宿題だ。さっきレインが言ってた『魔法に頼りすぎてる』とはどういうことか、考えながら練習してきてくれ」
「はい! ……えっ、宿題?」
「「……ん?」」
「宿題……ってことはまた教えてもらえるってことか?」
「良いところに気が付いたね、レガードくん」
「おおお! やったじゃねーか、アシュ!」
「うん!」




