イケメン、弓を射る
美術と給食以外、手を抜いているとは失礼な。
たしかにその2つは最上級だが、薬草学の授業も楽しい。薬草茶と茶菓子が出る日もあってなかなかだ。前世の時と比べて変異している薬草もあり、植物学的にも実に興味深い。自然変異もあるし、人の手が入っているものもありそうだ。今後じっくり研究してみるのも悪くないと思っている。
薬草と言えば、植物のスケッチも好むことの一つだ。ただひたすらに無心で点描をする作業は、怒りや不安を鎮めることができて精神統一にもなる。実のところ、白黒表現の方が絵の具よりも好きかもしれない。
実技訓練での全力や試験での満点はあえて避けているが、授業に関しては全ての教科を意欲的な姿勢で受けているつもりだ。学んだり極めることが好きなのが賢者というものなのだから。
まあそんな俺の話はどうでもよくて、今はアシュだ。そのままギルドの地下訓練場を借りて、イアンさんが特訓してくれることになった。
「とりあえず、普通の矢を撃ってみてくれ。的はあれにしよう」
イアンさんが目線の高さの的を指し示す。
「はいっ!」と元気に答えたアシュは、軽く手足を揺らし身体の力を抜いて静かに深呼吸をすると、気持ちを整えて丁寧に弓を射った。
矢はパシュッと音を立てて、的の中心近くに突き刺さる。
「おー、良いじゃねえか。姿勢も綺麗だし、イケメンだし」
イアンさんがアシュを褒めてくれたので、なんだか俺も嬉しくなった。これに顔立ちは関係ないんだけど……んまぁ確かに爽やかなイケメンなんだよなぁ。
「そんじゃ次は、見上げるほどのデカい魔物がいる設定な! あの天井近く、一番上にある的の中心が、魔物の喉元だと思え。前で戦ってる剣士達が押され始めた。さっきみたいにのんびり構えてる時間はねぇぞ。今だ、撃て!!」
「!? あっ、ハイッ」
アシュが慌てて弓を射る。
「よし、もう1本! 撃て!」
「はいっ!」
最初の1本は少し下に、2本目はちょうど真ん中に刺さった。
「へぇ……なかなかやるじゃん」
「あ、ありがとうございます」
「で? 魔法矢の特訓だって?」
「はい! よろしくお願いします!」
「弓術の基本はちゃんとできてると思うぜ。見た感じ魔力も強いし、レベルは……そうだな、12〜13ってところか?」
「えっ!? あっ、はい……13です……」
「レベル13だったら、10代の平均以上だな」
レベルを言い当てられたアシュは呆気に取られている。いや、俺も驚いた。
「……てかイアンさん、他人のレベルが分かるの?」
俺は恐る恐る尋ねた。
「ああ、肌感覚で大体な。……お前は、見られたくないって顔してんな」
思わず顔を背ける。
「安心しろ。そんな巧妙に隠されちゃ、分かんねーよ」
隠蔽魔術を使ってることがバレてる……?
「……ただな、レイン。お前はまだ10歳だ。子供の身体に合わない無茶なことはして欲しくないんだよ。ここ最近、また異常に強くなっただろ? すでに行くとこまで行ってんのかも知れねーけどさ……」
子供がいないイアンさん夫婦には、息子のように可愛がってもらっている。
「心配かけてごめん……」




