ギルドで出会ったイアンさん
今日は男3人だけだ。ノア先生はまだ仕事中、ジーナは家の用事があるので、代表して俺達でパーティー登録をしに行く。
浮かれたテンションのレガードとアシュを『酔っぱらいみたいだなぁ……』なんて思いながら眺めていると、ギルドの前に着いた。
「な、なんか緊張してきた……」
さっきまで騒がしかったレガードが急に静かになり、手を震わせながらドアを引く。
「ギルドなんてしょっちゅう来てるだろ」とツッコんだ俺を見て、高速で首を振るレガード。その反応と表情が面白すぎて笑ってしまった。
「それとこれとは違うって? あはは」
レガードは6歳くらいからずっと秘宝調査隊に興味を持っていて、10歳になるまで待ち続けたんだもんなぁ。今回はちょっと違う調査隊になっちゃったけど……。
ドアについた鈴が鳴ると目の前が開け、小テーブルが並ぶ休憩スペースで大人達が雑談している。地図を広げて依頼について検討している人達もいる。
「おっ、ローネストの坊ちゃん」
入り口近くにいた男性に声を掛けられた。
「あ、イアンさん。こんにちは」
「また魔物退治に呼び出されたのか? 強い奴は大変だな」
「いや、今日は……」
「秘宝調査隊に登録するんです!」
レガードが割り込んで答えた。
「えっ、マジで!? 坊ちゃん、あれやんの? そういう面倒ごとには興味ないと思ってた」
「えっと……友達と一緒に……」
イアンさんは俺達3人を見回して嬉しそうに笑う。
「そうかそうか! まあ、たまには同年代と楽しむのもいいと思うぞ。お前はいつも大人に使われてるからな。青春だ、青春!」
「そ、そうですね……」
イアンさんはギルドで知り合った人だ。
俺は冒険者の仕事をやりに来てるわけじゃないけど、討伐が難しい依頼を受けてほしいと言われ、幾度か顔を出している。
そんな俺のことを、振り回されてかわいそうだと言ってよく構ってくれる優しい人だ。
俺は別に、使われてる云々とは特に感じたことはないんだけどね。頼まれるからやっているだけ。ま、領地を守るのはうちの責務だと思うしね。
「イアンさんは参加しますか?」
「ああ、もちろん! ついさっき登録したところだ。……てかお前のあの強さ、もしかしたら勇者かもしれねぇぞ〜! なんてな! ハハハ」
イアンさんは大口を開けて笑っている。
「あっ、イアンさん、俺……」
「んあ? お前、いつの間に普段まで”俺”とか言うようになっちゃったのよ。まだ可愛い坊ちゃんでいてくれよー! ……んまぁ、そういう年頃か」
「そうですよ。もう10歳なんですから!」
「すまんすまん。だけど、戦闘モードに入ったときの豹変ぶりとか面白かったのに、残念だ」
「えー」と不服そうにした俺を見てイアンさんが笑いながら言う。
「その顔はまだまだお子ちゃまだな〜」
「もうっ! ……お、俺はさ、勇者ではないと思うけど、それでも魔王討伐には絶対に行くから!!」
「お……おう。何かすごい意気込みだな……。てか、やっぱあれだよな? 告示ではっきりとは明言されてないけど……魔王が復活してるってことなんだよな……?」
「恐らくは。国民がパニックにならないように明言を避けてるんだろうけど……もう既に、『俺は家から一歩も出ないで引きこもるぞ!』なんて言っている住民もいます」
「さすが領主家の坊っちゃま! しっかり領地視察してんなぁ!」
「今日はいつも以上になかなか名前を呼んでくれませんね……」




