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ノア・ロール嬢

「コホン! あー……っと……。んまぁ、話の流れ的に、恋心は伝えられるうちに伝えておかなきゃ!ってなったのは分かるんだが……お前ら、いつまでくっついてるんだー!! クソガキどもがぁっ!」


「先生、口悪すぎです」


「どう育ったら、良いとこのお嬢様がこんな風になるんだよ」


 ブチ切れるノア先生に向かって、アシュとレガードが小気味よく辛辣なツッコミを入れてくれているが、思わずジーナを抱きしめてしまった俺は赤面して動けなくなっていた。



 ◆ ◆



 勇者パーティー『リトス』の伝説――


 100年前、勇者パーティーがモトワールの魔王城に辿り着き、壮絶な戦いの末に見事魔王を倒した。


『魔王討伐成功。王都へ戻る』


 使い魔によって勇者ルカの言葉が伝えられた5日後、王宮に現れたのは、騎士ジェラルド・スミスただ一人だったという。


 彼は大粒の涙を流しながら、こう言ったそうだ。


「我々は帰路、大量の魔物に襲われました……。魔王との戦いで既に弱っていた仲間達は魔力が尽き、命を落としました。勇者ルカは死の間際、私にこの聖剣を預け、これを王宮に持ち帰るように言いました。消え入りそうな声で必死に託す姿がこの目に焼き付いて離れません……。

 勇者ルカの熱き想いに応えるべく、陛下にこの聖剣を献上いたします」


 彼自身も深い傷を負いながら、仲間のため懸命に王都まで帰って来たと、アリタルテ国王陛下はいたく感動し、公爵の位を授けたという。


 共に戦った仲間を失い孤高の存在となった公爵様の物語は国民の涙を誘い、伝説の騎士となった。


『翌年には国王陛下の次女・マリア王女殿下を夫人に迎え、2男1女の御子おこにも恵まれた。その後はご家族皆で手を取り合い、国の平和に寄与されました。


 〜きしさまは たいへん しあわせにくらしましたとさ〜』



「どんな伝説だよ!! ふざけんな!」


 高熱から目覚めて5日後、まだ体調が優れずベッドで過ごすことが多かった俺に、侍女のアローナが読んでくれたのが『きしさまの ぼうけん』という絵本だった。


 前世の記憶が戻る前の俺は、「騎士様、強くてカッコいい!」とお気に入りだったこの本の挿絵を真似して描いたりしていたようだが……。


 伝説の内容はもちろん、本を気に入っていた自分自身にも怒りが収まらなかった俺は、未熟で弱々しいレインの身体に嫌気がさし、その後すぐに鍛え始めた。


 あの不快極まりない絵本のお陰で今の強さがあるというのが何とも皮肉だ。


 鍛練を始めてしばらくして出会ったのが、ノア・ロール嬢。父上がツリード辺境伯を訪ねる際に、俺もついて行ったんだ。


 あまりに綺麗な人で、見惚れてしまった。


 9歳年上の彼女は当時14歳。貴族院高等科の1年生だった。将来魔法学の教授になるために、高等科に進学して学び続けていた。


 勤勉なノア様は初等科を学内1位で卒業、11歳から始めた冒険者活動も順調で、既に大人顔負けのCランク。そんな雲上の存在だった彼女は、なぜかその日ずっと、5歳児の俺のことを無言で睨んでいた。


 俺は父上の腕や背中に隠れながら過ごし、実に居心地が悪かった。


 ツリード辺境伯と父上は、『いやぁ、レインくん可愛いですなぁ』『今日はいつになく甘えん坊だなぁ』とか何とか言ってニコニコしていた……。


 初見で見惚れ、帰り際には不気味な存在となったノア様。


「何だったんだ、あの人。もう会いたくねえ……」


 ところが数日後、彼女はわざわざローネスト邸にやってきていきなりこう言った。


「私と勝負しろ。剣でも魔法でも、何でも構わない」


 俺は困惑して、思わず後退りをした。


 急に勝負を挑んできたことをいぶかしむと同時に、自分自身の”ある事”に不安を抱えていたんだ。


 既にそれなりの体力が付き、隠してはいたが魔力とレベルを爆上げしていた俺は、誰かと戦うことをためらっていた。


 ――自分の力をコントロールできない。大怪我をさせてしまうかもしれない。


「本気で来てもらって構わないぞ。今ならまだギリギリ私の方が上だ」


「えーと……?」


「ふん。来ないならこちらから行くぞ! 『水球ウォーターボール』!」


 この人5歳児に向かって本気だ……。兄上達よりも断然強い。


「『土壁ウォール』!!」


 俺は彼女の攻撃を防ぎ続けた。


「防御一辺倒か?」


「何を言ってるんですか。僕はまだ5歳ですよ!」


「私の前では隠さんでいいぞ。その力も、己の性格も。本来の自分を偽って疲れないのか? 自由にやれ」


「……っ! 別に偽ってなんか!」


 ノア様はニヤリと微笑むと、強い火魔法を撃ってきた。


「くそ……! 何を試してやがる!」


「お、いいねぇ〜」


「ふざけんな! 『防御盾シールド』!」


「いいから一度見せてみろって、お前の本気を」


 黙り込んでしまった俺を見て、ノア様は続けた。


「お前、怖いんだろ? 自分の力が」


「何の話ですか?」


「いやまあ、ここまでの防御力も大概だがな……」


 ……この人には隠し通せないか。


「その通りですよ。隠してるけど、レベル20。4属性は全て使えます」


「フハハッ! やば、20だって!? あっぶなー! 私レベル15だよ。負けるとこだったなー! アハハハハ!!」


「はぁ!? 危険すぎます! 俺が攻撃してたら危なかったじゃないですか……。なのに何でそんなに楽しそうに笑ってるんですか!」


「あー、まあこの剣はエンハンスしてるから。多少は受け止められるし、怪我しても死にはしないだろ」


「……ったく。狂ってんな」


「おっ、それそれ! どっちが本当のお前だ?」


「ハァ……。別にどっちも自分自身だよ」


「ふぅん。ま、いいけど。じゃ、また明日な!」


「……は!?」



 ノア様は大量の防御グッズを片手に、翌日からほぼ毎日ローネスト邸に押しかけ、約1か月かけて魔力コントロールの超スパルタ特訓をしてくれたのだった。(※学校は夏休みだったようです)

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