好きだ!
「……何ということか。あまりの内容に、正直ついていけてないんだが……要するに、秘宝はあの森に眠っているということか?」
困惑気味にノア先生が聞いた。
「そうです。我が命が潰えた『ラウルの森』に……」
その森の名に皆絶句しているが、無理もない。今や王国一危険な森と言われているのだから。
「ちなみに3つのアイテムとは、『封印の書』『聖剣』『賢者の剣』だ。封印の書を詠んで魔王の周囲に結界を張ったら、勇者が魔王に聖剣を突き刺す。次に賢者も一突きして大量の魔力を注ぎ込み、聖剣と自分の剣をエンハンス。最後に二人でもう一度魔王の身体に剣を押し込む――これが、魔王を倒す唯一の方法だ」
前世について一気に語った俺にアシュは、
「あまりに具体的で衝撃的だよ……。そんなの……帰りは本当にギリギリの状態だったよね……」と、眉をひそめて煩い、思いを寄せてくれた。
やっと顔色が戻ってきたレガードが、封印の書について尋ねる。
「誰が詠むんだ?」
「勇者だよ。特別な文字で書かれていて、内容は分からない。勇者にしか読めないんだ。ちなみに、真の聖剣はここにある……」
「真の……聖剣……?」と声を震わせるノア先生に目をやりながら、俺は亜空間からルカの聖剣を取り出す。
「この亜空間は転生前の俺が構築したモノでね。……ちなみに王宮にある聖剣は、こんな事もあろうかとダンジョンを出た後に俺が錬成してすり替えておいたレプリカだよ」
世界を手に入れられる程の強大な力を持つ剣――それが聖剣だ。パーティーメンバーは契約の下、ルカの聖剣に触れることが可能だった。だからこそ、アイツに奪われる訳にはいかなかった。
聖剣を守れたことは満足だ。でも、心残りがある――
「もう一人……パーティーにはヒーラーの若い女の子が居たんだけど……俺はその子を守れなかった……。俺達が斬られた時、回復なんてしなくていいから逃げるように言ったんだけど……どうなったかは分からない……」
「その女の子ってまさか……」
「先生、何か知ってるのか!?」
俺はノア先生に詰め寄った。
「あくまでも噂だ。伝説の騎士となったジェラルドが叙爵され、公爵となったのは知ってるよな……?」
「ああ」
アイツが公爵とか……腹の立つ話だ。
「初代公爵の第2夫人はとても若く……記憶喪失だったという噂だ」
――!? まさか……
全身が震え、また息が苦しくなってくる。
「誰かに似てると思ってたんだ……。一昨年、兄上達に連れられて貴族院の見学をした時に会った、公爵家のご令嬢ソフィア・スミス。先祖のジェラルドに似てるのは当然で、でもそれだけじゃなかった。彼女には不思議と嫌悪感は抱かなかったし……。そうか、君はティアの子孫でもあったんだね……」
俺は溢れる涙を止めることができなかった。
もう一人の仲間だったティアが生き延びていたことは嬉しかった。でも、恐らくジェラルドに記憶喪失にさせられて囲われたんだろう。……だって、彼女は俺に告白していた。その俺を殺した奴と自ら一緒になるはずがない……。
「ティアすまない……。俺は……俺は……! 君の気持ちにすぐに答えなかった。でも……魔王を倒して王都に戻ったら、言おうと思ってたんだ……『俺も好きだ』って……」
「うわーーん! レインくん、辛すぎるよお!」
「えっ……」
普段おっとりしているジーナがこんなに大泣きするなんて……。
「いや、まあ……辛かったのはラストノフで……今の俺は……」
泣いているジーナを抱きしめて俺は言った。
「ジーナ……君のことが好きだ」




