小説みたいな王子様
「メイリー、お前とは婚約破棄!破棄だ!!!」
何を言っているのでしょう、この坊ちゃんは。
この国は周りの国に比べてとても小さい為か、陛下も妃殿下も民衆と親しみ深くまたお優しく、その御子である第一王子のマイケル殿下も多くの者に将来を有望されています。
いつものように王宮の朝食に私メイリーも参加していましたら、その第一王子から先程の発言であります。
あら、夢でも見ているのかしら、私。
今日もマイケル殿下は両陛下譲りの麗しい金髪碧眼。だからって外見だけなら将来有望ってことじゃなかった筈よ。
教育係からも進捗に問題は無かった筈ですし、昨日は予定通りの日程、本日も今のところまでは予定通りだった筈ですが?
「マイケル、言葉の意味を理解して発言しているのですか?」
王妃殿下は驚きすぎていつもの綺麗な顔が見たことのない表情になっている。まあ、それでも綺麗なのだが。
「母上は黙って聞いていてください。これは僕とメイリーの話なのです。」
「後でメイリーと二人で相談するのでは駄目なのですか」
「大事な話なので皆に証人になっていただきたいのです。」
………大事な話。
陛下も妃殿下も首を傾げている。
「さあ、話の続きを。」
マイケル殿下は早く次に行きたいみたいだ。
「メイリーは僕の妹を虐めているんだ!だからさっき顔を見ただけで泣き出すなんてことがあったんだ!!!」
先程の話ですね。事実です。顔を見せただけで泣かれるのは仕方が無いとは思っていても、やはり堪えますね。
「それに一日中ずっと僕に付いてくる!」
それも事実です。私の仕事なので諦めてほしいです。
「ちょっとしたことでもすぐに注意するし、僕のことをよく子供扱いするんだ!」
それも仕方ないことかと。
「僕はこんなにもメイリーのことが好きなのに!!!」
「「やっぱり言葉の意味を解ってないでしょう!!!」」
両陛下からツッコミが入る。美男美女でもツッコミってするんだな。
「まず根本の話としてあなたは『メイリーと婚約破棄をしたい』と言っていましたが、あなた達婚約していないでしょう?」
「母上、違います。僕が言ったのは『婚約破棄破棄』です。」
ハキハキ?
「破棄の破棄してどうするのです?」
「婚約破棄をすれば婚約者同士は別れます。ならば、『婚約破棄破棄』すれば婚約を結ぶことができるのではないかと思うのです。」
もう陛下は笑っています。
周りに控えている者たちも笑顔で第一王子を見ています。
流石にそろそろ私も恥ずかしい。
「ご歓談中失礼します。発言を宜しいでしょうか。」
「いいぞメイリー、お前も関係ある話だからな。」
陛下から発言許可が取れた。
これだけは聞いとかないと。
「マイケル殿下。私の今読んでいる小説、見ましたね。」
げっ、と顔に出る第一王子。「詳しく」する妃殿下。笑いすぎて顔を上げられない陛下。
「先程までのマイケル殿下の発言は、私が休日に図書館より借りた小説のセリフから参照されたのでしょう。」
まさか、賢い賢いとは思っていたが、五歳児が大人向けの小説を読めるとは思わなかった!!!
「だってメイリー、この前どんな男性が好みか聞いたら『小説に出てくるような王子様』って言ってたじゃないか!」
「まだ幼いものね、読むことはできても中身をきちんと理解はできてないのね。メイリー、ごめんなさいね。いつもマイケルが迷惑をかけて。」
「とんでもありません、王妃殿下!!私はマイケル殿下付きの侍女でございます。」
そう、私はマイケル殿下付きの侍女。メイドの一人なのである。いつもついてまわるのも、注意をするのも仕事の内なのである。
「マイケル殿下。その小説は婚約者の方を虐める悪い王子が出てくる話です。私が好きな王子様は出てきません。」
「そうなのか!!でもさっきので婚約はできないのか?」
「できません。本日の空いたお時間に説明させていただきますね。」
誤解も解けそうなので、この話はこのあたりで終わりにしたい。今日は忙しい一日になりそうだ。
この話はその後、笑い話としてマイケル殿下の妹に、婚約者に、子に孫にと代々伝えられ、黒歴史としてマイケル殿下の顔を度々紅くした。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
初めて書いたので、感想頂けると幸いです。