放課後
校舎内に残っている人のざわめきがかすかに聞こえるが、教室の中は静かだ。
帰宅組も部活動組も早々に消えたので、当然だが。
ろうそくの火は消える一瞬前に、大きくなるという話だかことわざがなかっただろうか。
夕焼けには早いこの時間、太陽が最後を惜しむように強い光を放つ。
窓の桟、机や椅子そして鞄や上着といったあらゆる物が自己主張しはじめるのだ。
あっというまにくっきりとした影がのびていき、日差しがあたったままの部分との対比がなんとも美しい。
時が過ぎれば赤みを帯びた後は、徐々に薄まりやがて薄暮につつまれる。
ものや人の姿が曖昧になる黄昏時というやつだ。
この頃になると一気にあたりが暗くなり、一人きりでいるのが心許なくなる。
入り口にある照明のスイッチを押せば、いいだけ。それだけで明るさを取り戻せるのにしない。
光と影の競演。続く夕焼けによるファンファーレを楽しんだ後は余韻にひたっていた。
だから教室にそっと入ってくる人影に本当に驚いた。
「黙って入ってこないで。声をかけてよ」
誰そ彼と問いたいところだったけど。付き合い始めて一ヶ月の体育会系男子には理解されまい。
「いやいやあんまりにも景色に見入っていたじゃんか。声もかけずらいって!それとも遠くから一人で騒げって?」
「夕焼けに入る前が好きなの。夕焼けも好きだけど。ここ特等席なのよ」
ロマンチストっぽく主張してみる。真っ暗闇というわけではないので、近づけば誰かわかる。そんな暗さ。
それでも照明をつけないままなので、互いの姿は明確とはいえない。
「ふうん?グラウンドもみえるね?もしかして俺の練習風景もみていたりして」
「ふふん、さあね。それよりも帰ろ。驚かした罰になにかごちそうしてもらうから」
「はいはい。俺の姫は厳しいな」
そう言いながら、私に上着を着せ鞄を持ち帰宅準備を終えていた。
「思っていたよりも、早く終わったのね?」
まさか勝手に切り上げて、サボってきたんじゃないのと暗に問いかけると。
「違うよ、コーチの都合で本日は全員が早じまいを強要されたんだよ」
だから一緒に帰ろうって誘ったんだしとつぶやかれた。
「はい、手をどうぞ」と差し出される。顔も体も薄暗い中では、ぼんやりとしてみえる。
同時に美しい影にもみえて、私はなんだかうっとりしながら手をのばす。




