20)リヒャルトの決断
宿舎の方から、父と番頭が出てきた。父が手を振っている。暢気なものだ。呼び出されて縮こまっていたのに、今は父も番頭も別人のようだ。
「またよろしくおねがいします」
リヒャルトは、竜騎士達に、一礼をした。
「また、お会いできる日を楽しみにお待ちしております」
「道中気をつけて」
「皆によろしく」
見送りの言葉に背を押されるように、リヒャルトは、鍛錬場を後にした。
父と番頭は、なにやら機嫌よく楽しげに家に帰っていった。二人とも、リヒャルトが、自分で決めたら良いと言ってくれた。
王都で過ごす最後の晩だ。リヒャルトには、相談したい相手がいた。
夜の竜舎でリヒャルトは、フレアに何があったかを語った。竜のフレアは人語を話すことはない。頷いたり、首を振ったりするだけだ。迷っている時、黙って聞いてくれるフレアは、良い話し相手だった。
「なぁ、フレア、お前どう思う」
リヒャルトの言葉に、フレアは首を傾げただけだった。
「まぁ、俺が決めることだよな」
そうだと言わんばかりに、フレアが首を縦に振る。
「なんかでもさぁ。相手の予想と違うことするってのもいいけど、ちょっと格好悪いような気もしてさ」
フレアが頭で軽く小突いてきた。
「まぁ、俺がどうしたいか、だけれど」
家を飛び出して、竜騎士になることしか考えていなかった。竜騎士に任命され、腕を上げていけたらと思っていた。何のためにとは、考えていなかった。
「なぁ、フレア。お前ずっと俺に付き合ってくれるよな」
リヒャルトの言葉に、フレアが大きく口を開け、甘噛みしてきた。これは肯定だろう。
「最初はさ、俺のほうが弱いからさ、ちょっとみっともないだろうけど、俺、頑張るからさ」
相手は、御前試合の上位を独占する連中だ。
「フレア、付き合ってくれるよな」
頭で軽く小突いてきたフレアに、リヒャルトも頭突きを返した。竜のほうが頭が硬いから、びくともしない。
「明日の朝、ちょっと団長達のところに行ってくる」
フレアがそっと頭で押してくれた。行って来いと言ってくれているのだろう。
「俺、頑張るよ」
リヒャルトは翌朝、王都竜騎士団への転属を願い出た。
<第四章 完>
前日譚は、一旦ここで完結です。
リヒャルトは努力して(フレアもお気に入りのリヒャルトのために頑張って)、副団長になりました。
いくつかのエピソードをまた書き上げましたら、追加の予定です。
本編は続いていきますので、是非お付き合いをいただけましたら幸いです。




