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5)暴れ竜

 ルートヴィッヒには、それ以上答える理由がなかった。


 月明りがなく、星明りだけが頼りの新月の夜、刺客の襲撃が多い。昼間の襲撃は珍しい。それだけ、彼らには焦りがあるのだろう。


 出来ることなら、竜騎士になりたかった。人が壁を登れることができると分かれば、対策がとられるだろう。逃げ道を失うことになるのは分かっていた。だが、憧れていた、ずっとなりたかった竜騎士に嘘はつきたくなかった。


 刺客は来るだろう。先日の昼間の襲撃も、竜騎士の大半がいない日を狙ったものだった。誰か密通者がいるのだ。当然だ。貴族出身の竜騎士も見習いもいる。ルートヴィッヒが自らの騎竜を手に入れ、竜騎士となれば殺害は困難となる。その前に、彼らは何が何でも、殺しに来るだろう。白昼堂々と襲撃され、迷惑をかけてしまった以上、見習いなど続けられない。竜騎士にはなれない。死ぬ前に見習いになれただけでも、良かったと、ルートヴィッヒは自らに言い聞かせていた。

 

 暴れ竜と呼ばれる竜の檻の前に立った。ひときわ大きな竜は、頭を下げ、周囲の人間を睨めつけていた。ルートヴィッヒは、檻の隙間から入り込み、誰も乗せたことのない、鞍や手綱すらつけさせたことのない竜の前に立った。


 ルートヴィッヒは知らなかったが、トールは人を檻に入れようとしない。檻の中に強引に入ったら、無傷では済まないのが常識だった。


「トール、昼間にあなたに会うのは初めてだ」

竜の不機嫌に動じることなく、ルートヴィッヒは、竜を、自分が勝手につけた名前で呼び、話しかけた。


「今まで何度も匿ってくれてありがとう」

頭を寄せた竜の耳に、ルートヴィッヒは顔を寄せ、声を潜めて話しかけた。

「トール、あなたに乗って飛んでみたかった。竜騎士になれば、この立場から自由になれると思っていた。ここへ来る方法も知られてしまったから、もうここへは来られない。お別れだ。今までありがとう」


 ルートヴィッヒは、こみあげてくる涙をなんとか抑えた。刺客に襲われたときの逃げ場所も侵入経路も、他人に知られたのだ。もう、逃げ場所がない。夜、隠れて眠る場所もなくなった。生き延びられるとは思えなかった。ベルンハルトに、大事な弟にお別れを言いたいが、王宮の彼の部屋周囲の警備は厳重だ。忍び込むのは容易ではない。


 ルートヴィッヒを慰めようとするかのように、トールが頭を摺り寄せてきた。

「ありがとう。今まで何度も助けてくれて、本当にありがとう」


 もっと生きたかった。空を飛んでみたかった。そのために、憧れていた竜騎士になって、王都竜騎士団に入ろうと思った。国王の剣と盾といわれる王都竜騎士団の一員として、今まで自分を守ってくれたベルンハルトの治世を支えたかった。王妃派の攻撃は執拗になっている。刺客に襲撃される頻度も増えた。街に逃げたこともあったが、見つかってしまった。竜騎士団の兵舎にまで刺客がくるとは思っていなかった。もう、逃げる場所はない。


 一度でいい、トールに乗って飛んでみたかった。できればそのまま、どこか、はるか遠く、誰も自分を知らないところへ行きたかった。


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