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18)帰路

 任命式のためアルノルトが王都に行く必要があるということに気づいたのが、出発当日の朝だったり、ルートヴィッヒが相手から奪った大鎌をトールに括りつけて持って帰ると言って譲らなかったり、南から来た竜達がルートヴィッヒに付いてこようとして騒いだり、いろいろ問題はあったが出発はできた。


 南から来た竜達は、王都やその周辺は気候が違うから、連れて行けないというルートヴィッヒの説得に渋々王都へ行くことを諦めた。

「また来るとは言えない。でも、君たちのことは忘れない。ここの人達が大切にしてくれるから大丈夫だよ」

ルートヴィッヒは、気安い口調で竜に話しかけ、一頭ずつ抱きしめて、別れを告げた。共に訓練した南方竜騎士団団員とは、軽い別れの挨拶だけで済ませようとした。以前ならそれで済んだ。


 団員達は遠慮なく、ルートヴィッヒと握手し、肩を叩き、別れを惜しんだ。最初は驚いていたルートヴィッヒも次第に受け入れて行った。

「ルートヴィッヒ、お前は竜に話している分の半分でいいから人間に話せ」

アルノルトの言葉に、属する竜騎士団や年齢にかかわらず、竜丁も含め笑いが起こった。

「言葉遣いもだ。竜にああやって気安く話しているとおりに、俺たち同輩にも気安く話したらいい」

それに頷くものも多かった。

「気安くと、おっしゃっていただいても、どのようにしたらよいのでしょうか」

困り果てた様子のルートヴィッヒを、爆笑が包んだ。


 王都への旅は、穏やかに過ぎた。自国領内を竜騎士が飛ぶだけだ。ルートヴィッヒは、ゲオルグを乗せたハーゲスの手綱を取り飛んだ。その後ろを、大鎌を括りつけられたトールが飛んだ。

「まぁまぁ見なれない光景だな」

「何がですか」

「いや、まぁ、大したことじゃない」

ゲオルグの前に座ったルートヴィッヒが手綱を取っていた。ルートヴィッヒが見習いだったころ、彼は誰にも背を向けようとはしなかった。ゲオルグはルートヴィッヒの変化を喜んだ。


「南で団長をハーゲスに括りつけて飛んだときは、トールの後ろにあと五頭、手綱も鞍も無い竜が居ました。あの時のほうが、相当見物だったと思います」

ルートヴィッヒが自分から話をすることもなかった。

「そうだろうな」

「トールに、彼らに自由に好きなところに行くように説得してくれと頼んだのに、後を追って飛んできました。団長を乗せていて急いでいたのですが、後ろも気になるし困りました」

「心配かけたな」

「ご無事で良かったです。以前、薬師に手当ての方法を教わっていたのが、役立って良かったです」

「そういえば、薬師が最初の手当てが良かったから、足を切らずに済んだと言われたな。なぜ、そんな手当てのことなど知っている」


 長い沈黙があった。言いにくいことがあると、ルートヴィッヒは黙ってしまう。適当な相槌をうつことをしないから、相手がその意図を理解できずに勝手に腹を立てることが多い。


「幼い時から世話になっていた護衛騎士がいたのです。左腕に大怪我をさせてしまって、どうしていいかわかりませんでした。彼が家に戻って、そのあとどうなったか、何もわからないのです。家を出て行って消息不明だと連絡があっただけでした。詫びも礼も言えませんでした。だから、薬師に怪我の対処を教えてもらいました」

「その男に会いたいか」

長い沈黙があった。


「どこにいるかわかりません。会ってくれるかどうか。当時手紙を送りました。彼の手元まで届いたかどうかも、わかりません。彼からの返事はなくて、ただ、彼の家族から、家を出て行ったという手紙があっただけなのです」

会いたいと、素直に言えばいい。だが、そう言えない環境にルートヴィッヒはいたのだろう。

「会えるといいな」

「はい」

ルートヴィッヒも、促してやれば素直に心情を吐露する。きっといつか、自分の言葉で言えるようになるだろう。


「その点、竜は素直だな。お前はトールにあの五頭に自由に好きなところに行ってくれと言わせた。だから、自由に好きなところ、つまり気に入ったお前に付いて来たのだろう」

「それは、考えませんでした。彼らを置いて来たのは悪いことをしてしまったのでしょうか」

「いや、あれは南の竜だ。雪が降るような王都の冬には耐えられん。だからいい。ところで、あの大鎌をどうするつもりだ。お前は」

「試しに少し使ってみようかと思いました」

刺客達の使う暗器も使いこなしてしまうルートヴィッヒだ。興味だけで持って帰ってくるということは十分ありえる。


「ずいぶんと良い品のようなのです。野晒(のざら)しで朽ち果てさせるには惜しい。持ち主を特定できないかとも思いました。家族に返してやりたいですが、そうすると私が敵とわかってしまいます。それも困ります。正直あまり考えてはいません。いずれ隣国と友好関係を築くことができれば、その時に決めてもよいと思っています」

「まぁ、間違えてもあれで仲間の首は刈るなよ」

「もちろんです」

ゲオルグも、仲間以外の首を狩ることを止めようとは思わなかった。



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