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1)王都の酒場

 アルノルトは南方竜騎士団に所属する若手竜騎士の一人、つまりは下っ端だ。幹部や先輩を敬わねばならない。竜騎士は実力主義を信条にしている。実際に王都竜騎士団団長のゲオルグも平民だが、尊敬されている。


 残念ながら、若手同士となると、実力を云々しようにも、大した力量の差はない。同じ若手であっても、貴族は貴族で平民は平民だ。アルノルト達平民出身の若手は、正真正銘、下っ端の下っ端でしかなかった。


 今、アルノルトの周囲にいるのは、全員平民出身の若手竜騎士だ。今年の竜騎士見習いの教育係として王都に集められた。初めの頃はともかく、お互い顔見知りになり親しくなると、気楽なものだ。


 時々王都の酒場で安酒を手に、ゆっくり過ごすのも悪くない。

「俺が見習いのとき、教育係なんて、大先輩って思ってたけど。実際やってみると、違うな」

「あー、わかる」

仲間の言葉に次々と賛同の声があがる。

「怖かったけど、先輩も大変だったんだろうなぁ。帰ったら、俺、先輩に聞いてみよう」

「堂々と振る舞えって言われてもさ、俺達と数年しか変わらねぇわけよ」

教育係として見習いを指導するために、いかにあるべきかの訓示は王都竜騎士団団長ゲオルグから直々にいただいた。


 だが、どうにもこうにも、なんとかして落ち着こうにも、落ち着かない。

「王都竜騎士団の前でさ、俺ら下っ端が、見習い相手に堂々としたところで、いろいろ無駄だよな」

「威厳が違いすぎてさ」

王都竜騎士団は精鋭揃いだ。圧倒的な気迫を放つ本物の実力を前に、身分の差など意味が無くなることをアルノルトは実感した。見習いと数年しか違わないアルノルト達若手の存在も、彼らの前では吹けば飛ぶようなものでしかない。


 落ち着かない原因は一つではない。

「それにさぁ。実力ってなると、まだ飛行訓練始まってないけど、どう考えてもさ」

先日、アルノルト達教育係は全員、たった一人の竜騎士見習いを相手に剣で完敗したばかりだ。得物を槍に変えても、全く歯が立たなかった。

「ちょっと本気出されただけで、俺ら全員、駄目駄目だったしな」

「実戦経験があるからとか言ってたけどさ。それ以前の問題だよな」

本人は謙遜したつもりなのだろうが、若手であっても竜騎士は竜騎士だ。剣を打ち合ったときに、相手と自分の力量の差を察して当然だった。中途半端な謙遜をした竜騎士見習いに、アルノルトは絶対に勝つと決めた。


 少し残念なところがある竜騎士見習いは、今日の訓練でもアルノルトに勝ちを譲ろうとした。本人にそのつもりは無いらしいが、馬鹿にされているようで、本当に腹が立った。本気で、殺るつもりでかかってこいと言ったら、表情一つ変えずに、一瞬で間合いを詰めてきた。本当に、可愛げがない。


「飛んだとたんに誰が一番かなんて、目に見えてるよな」

特例で、あの無愛想な竜騎士見習いが飛んだ時、アルノルト達教育係もその場にいた。飛ぶのは初めてだというのに、それも決して人を乗せなかった暴れ竜の背だというのに、臆すること無く悠々と空を舞っていた。


「本人は、早く飛行訓練を受けたいだけ、だろうけどさ。まぁ、今日も強引だったな」

落ち着かない要因の一つである竜騎士見習いは、今日も一日全力で変人ぶりを発揮していた。

 

「あの頓珍漢、賢いくせに、なぜ、あぁまで馬鹿なんだ」

アルノルトの言葉に、苦笑が広がる。珍しい名前ではないが、あまり人に聞かせて良い名前ではない。いつの間にか、アルノルトの口癖が、かの少々変わった竜騎士見習いの呼び名になった。

「わからないでもないけど、強引すぎるよね」

「あの頓珍漢らしいというか、本当に」

アルノルトは酒を飲み干した。

「まぁまぁアルノルト、そう言わずに。ほら食おうぜ。次の注文、お前が決めろよ。何が欲しい」

卓の上の料理はあらかた片付いていた。まだ腹には余裕がある。


「頓珍漢に常識」

アルノルトの口をついて出た言葉に、仲間達が爆笑した。

「それもそうだが、無茶言うな。お前が食いたいものだ。何かあるだろう」

「頓珍漢の頑固さ」

「お前、それは腹を下すから止めておけ」

仲間の言葉に、アルノルトも笑いの輪に加わった。


「今日も今日だ。相変わらずの頓珍漢め」

「お陰でさっさと終わったから、良いんじゃないか。俺達のときの半分もかからなかった」

「まぁな」


今日は、竜騎士となるための課題の一つ、高所に慣れるための訓練の日だった。建物の屋上から、命綱だけを頼りに飛び降りるのだ。空を飛ぶ竜の背とは、比べ物にならないほど低く、命綱が無くとも、正しく着地できたら怪我をすることもない高さだ。だが、空を飛んだこともない竜騎士見習いには恐ろしい高さだ。飛び降りることを躊躇する者は多い。毎年、どうしても飛び降りることが出来ずに、竜騎士見習いを辞退するものがいる。


 今年は異例だった。原因は、恒例となりつつあるルートヴィッヒの奇行だ。



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