プロローグ GOOD FACE
ローズとジャックが結婚し、23年後、第一子の長男のハーバード大学卒業式。春風が爽快と駆け抜け、若者たちは希望に燃えている。ジャックに出会った歳の息子を送り出す喜び。
ジャックは、あの勝負の日のことを振り返り、ローズに長年の秘密を打ち明けた。
「あの日、君からプロポーズされて答えた直後、3万3千ドル借りただろ。あれは、昨晩ポーカーで大負けし、翌日、マフィアに返すのに計8万3000ドル(約1000万円)返す必要があったからなんだ。すごい強い日本人にポーカーの差し勝負で負けてさ」
ローズの長年の謎が解けた。あのプロポーズの後、ジャックは突然、結婚の了承の後、ローズに「AND PIEASE REND ME $33,000」(あと、追加で3万3000ドル貸してくれ)と奇妙な申し出をしてきた。ローズはすんなり受け入れた。今考えれば、通常の精神状態では到底、受け入れられないcrazy(狂気じみた)な申し出なのにである。
ローズも、ついに打ち明けることにした。
「あなたには話していなかったけど、実はあの日、私は奇妙な夢を見たの。その悪魔の話が忘れられなくて。そして、あのことがきっかけで私が健康診断を受けて、脳腫瘍が見つかったことは話したけど、実はカジノの投資も不安になって一度、全て清算したの」
ローズは父から受け継いだとき、莫大な投資信託も受けていた。そしてカジノの客としての付き合いもあり、かなり危うい信用取引もしていた。あのプロポーズがきっかけで、一度、
ロシア・ウクライナ戦争前にすべての株券を売却することにして、結果、カジノは救われた。
今は、夫婦ともにカジノの経営には全くかかわっていない。キャンドルに無償でカジノの経営権の3分の1を譲渡し、残りは売却した。キャンドルからは年3パーセントの利益だけを受け取っている。ジャックは、SDGs(Sustainable Development Goals)を目標に、クリーンエネルギーを扱うディーラーに転身し、社会貢献を目指すビジネスマンとなった。
ジャックが長年の不思議に思っていた秘密を聞いた。「なぜあの勝負のとき、君は2枚目から配る不正セカンド・ディールまでして、僕を勝たせてくれたんだい。本当のカードはスペードの8で僕が19、君の20に負けていた。その秘密は明かしてくれいないのかい?」
ローズは、きっと運命も「GOOD FACE」(いい結果)になると思ったから、と揶揄った。