show Down please(カードを開けてください)
ローズはしかして、悪魔と対峙した。緊張で背筋が凍りつく。本当に自分の全てを賭けているような緊張感だ。悪魔は3300ドルの現金をチップにチェンジした。そして、いきなり300ドルのベット。見事、ブラックジャックを引き当てた。まさに強運である。それからも、次々に強引なベットをして、奇妙な引き当て方をして勝ち続ける。
あっという間に悪魔はチップを約7倍の2万3000ドルにした。30分程度で、2万ドルも勝つのは異常としかいえない。カードのめぐりがカジノ側に悪すぎる。
そして、悪魔がオール・インと、威勢よくベットした。ローズはふらふらになりながら、残りカードから自分の知識を総動員した。悪魔の勝率は確かに53%くらいありそうだった。だが、プイとしては、背水の陣をするには悪手になる傲慢なプレイだろう。
だが、運命のいたずらか、悪魔に配られた1枚目はスペードエース、グットフェイス(プレイヤーにとって有利なカード)である。このとき、始めてローズは悪魔を凝視した。
黒い影だったと思っていた悪魔はジャックだったのである。ジャックは人生を賭けるばかりの必至の形相である。昨日8万3000ドルも勝っているとは思えないくらいに。ローズは心に決めた。もし、次のカードにジャックにハートのクイーンが配られたら、自分も勇気を出そうと。残りカードは133枚、ハートのクイーンは1枚だけなのだから。
ローズは、来は表にして渡すカードを裏面のまま、カードを配った。プレイヤーに運命を託すための遊び心だが、ブラックジャックではディーラーのルール違反だ。ローズは震える声で言った。「show Down please(カードを開けてください)」と。
ジャックの綺麗な指先から滑らかに、ハートのQが捲られた。
「WINNER WINNER CHICKEN DINNER!」観客は大喝采だ。
ジャックが意外そうな表情から、子どもような純粋な笑顔と射るような目でローズを見つめて、心から「NICE DEEAL」と謝辞を述べて、ディーラーへの感謝のチップが宙に舞った。このとき、ローズの心は決まった。
「MERRY ME」私と結婚してください。ローズが勇気を振り絞ったプロポーズだった。ジャックのYES、YES、I DOの返答は、少しの間だったが永遠の長さのように感じた。