終.これからもレムさん家は賑やか
――――――ベリアーノ市・レム家屋敷――――――
「うー、何か気分悪い……」
リゼットの調子が悪い。
家事をしている最中に時折口を押えてトイレに駆け込んだりしていた。
そしてそれを見たメイシーがすっと席を立って彼女を追いかけていく。
「おとーさん。おかーさん大丈夫かな?」
俺の膝の上で三女アリスが心配そうに母親が走って行った先を見ている。
一方で長女と次女は何やら顎に手を当て考えている。
「これは、もしかしてアレじゃないの?」
「わかるの、リリィ?」
「ええ。私だって子どもじゃないわ」
いや、子どもだよ。
お前たち二人は3歳にしては言葉の成長が早い気がするけどさ。
ていうかそうか、リリィは気づいたのか。おませさんだな。
「食べ過ぎよ」
「そうなのね!!」
ああ、その辺はまだ子どもらしい発想なんだな。
俺はアンジェラに目配せをする。
まあ、俺達は大体の原因がわかっている。
というか俺自体当事者だしな。
これはつまり……
□
それから数日。
娘達を居間に集める。
「えーと、最近お母さんの調子がよく無いのはわかってるよな?それで、今日はお前達に何でそうなのかを教えておこうと思う」
「おかーさん、大丈夫なの?」
「大丈夫よ、アリス。リリィによれば食べ過ぎらしいから」
「ええ、間違いないわ」
自信満々に胸を張る次女。
その辺の誤解も解いておかないといかんな。
「リリィ、実はそうじゃないんだ」
俺の言葉にリリィの顔色がさっと変わる。
「え?それじゃあまさか何かの病気とか?」
食べ過ぎだと信じていたケイトも不安げな表情で見つめてきている。
血の繋がりが無くてもケイトやリリィにとってリゼットは大切な母親のひとり。心配なのだろう。
直接血が繋がっているアリスなんか泣きだしそうになっている。
「えーとな、実はリズママはお腹に赤ちゃんがいるんだよ」
「「「赤ちゃん!?」」」
娘達が顔を見合わせる。
「どっちになるかはわからないけどつまりは、お前達の弟か妹だ。新しい家族だな」
「お、おとーさん!それじゃあ、おかーさんは大丈夫なの?」
勿論、と頷く。
「弟か妹……」
「新しい、家族……」
長女と次女も顔を見合わせている。
生まれた順番で長女、次女、三女となっているがこの3人は同じ日に生まれた。 実質3つ子に近い。
この子達が3歳くらいになるまでは次の子は作らずにいようと皆で話し合った。
そして娘達がしっかりし始めた所で弟なり妹なりを、ということとなったわけだ。
「つまり、あなた達が本当の意味でお姉ちゃんになるんですよ」
メイシーの言葉を聞き娘達が『お姉ちゃんに……』と言葉を反芻していた。
そして……
「す、すごいよ。ボク、お姉ちゃんになるんだ!!」
三女が興奮してその場で跳ねる。
「お姉ちゃんになるんだからみんな、好き嫌いしたりしてちゃダメよね。お姉ちゃんらしく、なっていかないとね」
アンジェラの言葉にケイトがばっと立ち上がり。
「勿論よ!あたし、お野菜もしっかり食べるもの!」
一方のリリィは少し気まずそうに。
「私も……だけどお魚はちょっと……」
「大丈夫よ、リリィ。あたしも協力するからみんなで立派なお姉ちゃんになろう!!」
3姉妹は喜び、互いに励まし合っていた。
その様子を見ながらアンジェラ、メイシー、リゼット達は目を細めていた。
この異世界に転生して出来た大切な女性達。
彼女たちとの間に生まれた愛しい我が子達。
そしてやがて増えていく新しい家族。
明るく賑やかな、かけがえない日々が紡がれていく喜びを俺は嚙みしめていた。