3.「娘達に浦島太郎を聞かせたらツッコミだらけになった件」
前作でもあった「昔話を聞かせたら」シリーズです。
レム・アンジェリーナです。
レム家の家長で皆をまとめています。
さて、今日はナナシさんが娘達に故郷の昔話を聞かせてあげるそうです。
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【ナナシ視点】
――――――ベリアーノ市・レム家屋敷――――――
「それじゃあ今日はお父さんが昔話を聞かせてあげよう」
俺の周りに座る娘達が目を輝かせている。
こう見えて俺は昔話ソムリエと呼べるほどいろいろな昔話を知っておりそらんじることが出来る。
「むかしむかし、ある所に浦島太郎という心優しい漁師さんが住んでいました。ある日のこと、浜辺を歩いていると一匹の亀が子ども達にいじめられているのを見つけました」
「ちょっと待って!」
長姉のケイトが手を上げる。
うん、わかっていた。
だってあの妻達の娘だからな。
絶対何かしらツッコミが来ると踏んでいたよ。
「カメさんって怖いモンスターじゃないの?何で子どもにいじめられるの?」
「えーと、世の中にはおとなしいカメさんもいるんだよ?今回出てくるのは弱いカメさんだからな」
確かにこの世界のカメと言えばフライングタートルだとかキラートータスだとか物騒な奴がいる。
そういや先日、フライングタートルを倒してその話を娘達に聞かせたっけ。
だってあいつら空中から爆発性の卵を産み落としてきて大変だったんだぞ?
「続けよう。浦島は弱い者いじめはいけないと子ども達からカメを助けてあげました。するとカメが言います。『ありがとう。御礼に竜宮城へお連れしましょう』」
「ちょっと待った!!」
次女のリリィが手を上げる。
いや、そうだよね。うん、絶対来ると思った。
「りゅーぐーじょうって何?」
「え?そっち?カメが喋ったんだけどそれについてはスルー?」
「だっておはなしで動物さんが喋るのは普通の事だもの。りゅーぐーじょうの方が気になったの」
いや、そうだけどもさ!
「えーと、海の中にあるお城だよ?乙姫様って言うお姫様が居るんだ……で、続きだけど浦島太郎はカメの背中に乗ると海の中の竜宮城へ行きました」
「ねぇ、おとーさん。ボク、お風呂で息を止めて潜れてもちょっとだけしか出来ないけどうらしまさんは大丈夫なの?」
あらやだ、ここに来て微笑ましい子どもらしい質問が来た。
とは言えこれについての答えは……
「浦島太郎は『水中呼吸』のスキルを持っているので大丈夫です」
説明に困ったのでスキル持ちという事にしておいた。
娘達も何となくだが納得してくれた。
「竜宮城はとても美しいお城で乙姫も美しい女性でした。浦島太郎は歓迎されお城の大広間でたくさんの豪華な料理をごちそうになりました」
「ちょっと待ってください!その豪華な料理について詳しく!!」
「え?メイ?ちょっと急に何を」
「も、もうメイシー!ダメだよ。お話の邪魔をしないの」
「で、ですが……」
『豪華な料理』というワードに反応して乱入したメイシーがリゼットに引っ張られていく。これは予想してなかったなぁ。食い意地が張ってるなぁ。
娘達はその光景に口をぽかんと開けていた。
「えーと、タイやヒラメやタコなどの魚たちが、太郎に踊りを見せてくれました」
「ねぇ、それってやっぱりモンスターじゃないの?」
ケイトがまたしてもモンスター説を出してきた。
「ケイト、そういうものだって割り切らないと……」
そしてリリィは現実的にそれを切り捨てる。
「太郎は時間が経つのも忘れて毎日を過ごしました」
「ねぇ、おとーさん。太郎ってひまじん?」
アリス、それは言っちゃだめだよ。
確かにさぁ、毎日タイやヒラメやタコが踊っているのを見て楽しいのかという疑問はあるけど……
「……意外と面白いのかもしれないよ?数日が過ぎ、浦島太郎は村のことやお母さんのことを思い出し、ついに別れの時がやってきました。別れ際、お姫様は浦島太郎に小さな箱を手渡しました。そしてこう言いました。『決してこの箱を開けてはいけませんよ』と」
「おとーさん、何で開けちゃダメなものを渡すの?」
そうだよなぁ、それって疑問だよ。
「何でだろうな?えーと、カメに乗って村に帰った浦島太郎は、どうしたことか自分の家もお母さんも見つけられず、村もすっかり変わっていました。何と竜宮城に居る間に数十年も経っていたのです」
「やっぱりモンスターよ。カメさんは悪いモンスターでおとひめも悪い魔法使いなのね」
ケイトはもうモンスター説から離れられない。
確かにそういう見方も出来るよな。
「どうしたらよいかわからなくなってしまい、玉手箱を開けてみることにしました。すると白い煙が出てきて、浦島太郎はあっという間におじいさんになってしまいました」
「「「ぎゃーっ!!」」」
予想外の結末に娘達が悲鳴を上げる。
「やっぱりおとひめ達はモンスターの一味よ」
「ケイトに賛成ね。たまてばこはまどうぐの一種かも」
「うらしまたろう可愛そうだよぉ。ボク、カメ怖いぃぃ」
あれぇ、楽しい昔話のはずだったのだがな。
ちなみに少し離れて話を聞いていたアンジェラがポツリと呟いた。
「その玉手箱ってさ、あなただったら絶対開けちゃうわよね?」
はは、そんな……心当たりがありすぎてぐうの根も出ないな。
だって、『絶対』開けるなって言われたら……なぁ?