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1.「レムさん家の節分」

レムさん家の日常は穏やかに、時折刺激的に流れていく感じです。

悩みましたがスタートでは娘たち3歳です。

 ここは異世界ニルヴァーナ。

 その中にある国家ナダ共和国。

 街の名前は首都ベリアーノ市。

 そこに3人の妻を持つ転生者の男が居た。


 名はレム・ナナシ。

 妻はアンジェラ、メイシー、リゼットの3人。

 それぞれ同じ日に生まれたケイト、リリィ、アリスという3歳の娘たちが居た。

 これは賑やかな1家の物語。


――――――ベリアーノ市・レム家屋敷――――――

【ナナシ視点】



 その日の夜、俺は妻達を居間に集めてある作戦会議を行っていた

 子ども達は2階に作った子供部屋で遊んでいる。


「えー突然だが明日、子ども達と節分を行おうと思う」


 俺の言葉に妻達が顔を見合わせた。


「節分というと……確か2月にやる豆をまく行事でしたね?」


 2番目の妻であり妻達の中では最年長のメイシーが確認を取ってきた。


「その通り。子ども達には俺の生まれ故郷の風習というものにも触れて欲しいと思う」


「それは良い事だと思うけど何で豆をまくの?」


 家長であり最初に結婚した相手であるアンジェラの質問に俺は頷く。


「俺の居た世界では季節の変わり目には邪気が出てくると信じられていてな。それが鬼となって現れるので豆で追い払おうというわけだ。元々農耕民族だったから豆とかには力が宿ると考えられて いたという背景もある」


「ねぇ、お兄さん。実際にどういう流れになるの?」


 3番目の妻、リゼットが手を上げる。

 ちなみに子どもがいる時は『お父さん』だが大人だけの時は割と『お兄さん』呼びに戻る。


「まず俺が鬼の面を被って家に入ってくる。子ども達は『鬼は外、福は内』と言いながら俺に豆を投げつけるわけだ。それで、俺が逃げ出した後で鬼の面を取って戻って来る。その後は皆が歳の数だけ豆を食べて1年の健康を祝うわけだ」


 とまあ、こんな感じで流れを説明する。

 後は恵方巻とかイワシの頭を玄関に刺すとか聞いた事がある。

 だが恵方巻は今年どっちを向けばいいかノリの調達が難しい。

 イワシの頭云々については正直よく知らない。

 ただ、ご近所に怪しい黒魔術をしている家と勘違いされても困るので断念した。

 豆については『ガラ豆』という豆を炒ったものが調達できたのでそれを使う事にする。


「というわけで3人とも協力を頼むぞ」


 そう言っている横で……ポリポリ。

 豆をポリポリとつまんでいるメイシーが居た。


「えーとメイシー、食べるのは明日な?」


「えー……」


□□


 そして迎えた当日。

 夕食後、豆まきをすることになった。

 居間に集められた娘達は小さな箱に入った豆を渡されていた。


 アンジェラが皆を代表して豆まきのやり方を説明している。

 俺は窓の外からその様子を眺めていたが……何て尊い光景だろうか。

 元居た世界では想像もできないことだった。

 ああ、異世界転生ありがとう。


 やがて説明を終え準備が出来たという事でメイシーがこちらに目配せをする。

 よし、節分開始だ!

 俺はとある筋から入手した鬼の面を被ると玄関の扉から家の中へと飛び込んだ。


「ぐははは、鬼だぞーーー!!」


 ちょっと演技があれな気がするが……


「「「ぎゃああああ!!!」」」


 娘達は突然入ってきた鬼に驚き悲鳴を上げた。

 うん、意外といけてる。


「うぇぇぇぇぇっ!!?」


 何かリゼットが一緒に驚いている気もするけど……

 いや、これは場を盛り上げる演技……だよな?


「さあ、3人とも。怖い鬼さんに豆を投げつけるのよ」


 アンジェラが豆まきを促すが3人とも足がすくんでいて動けない。

 あれ、刺激が強すぎたか?

 仕方ない。もう少し近づいてみるか。

 俺は3女であるアリスに近づいていく。

 するとアリスが豆の入った器を差し出して来る。


「うう、お、鬼さん。これあげるから帰ってください……」


 あれぇ、降伏しちゃったんですけど?


「ダメですよアリス、立ち向かわないと。鬼の弱点は豆ですよ?」


 メイシーが優しくアリスの肩をたたく。

 よしよし、もう一息行くか。


「ぐははは、豆は苦手なんだ。だから代わりにお前を食べてやるぞー」


「うぇぇぇぇ!怖い~~っ!!!うえぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」


 あ、やりすぎたか。

 元々一番怖がっていたアリスが大泣きを始めてしまった。

 すると、今まで怖がっていたケイトとリリィが目の色を変えてこちらを睨んできた。


「アリス!あんたよくも妹を泣かしたわね!!」


 長女のケイトが豆をテーブルに置く。


「許さない!ケイト、やっちゃうよ!!」


 次女のリリィも怒っている。

 あれ、何このヤバそうな展開……


「魔光力……」


「レッキング……」


 姉二人は妹を守るためにそれぞれ最近覚えた技の構えを取り……


「うぇっ!これってまさか……2人とも駄目だよ!アンジェラ、メイシー!子ども達を止めないと……」


 リゼットがこの後の展開を察して叫ぶがすでに遅い。


「「ビィィィィム!!」」


 俺目掛けてビームが発射された。


「待てぇぇぇぇぇぇぇ!!?」


□□□


 数分後、玄関にあおむけで倒れる俺の面が外された。


「ああっ!鬼の正体はお父さんだったの!!?」


「違うわアリス、きっと鬼がお父さんを乗っ取っていたのよ」


「そうねリリィ、あたしもそう思う」


 娘達は鬼の正体を見て独自の見解に達したのだった。

 そうだった、この子達俺からの遺伝でビームが撃てるんだったよ。

 ていうか……今更だがビームが撃てる遺伝って何だよ?


 そんな事を考えていると……


「がはははは、鬼が来たぞー!!」


 玄関を開けて鬼型モンスターが入ってきた。

 いや、俺もしたけど丁寧に開けて入って来るなぁ……

 そしてあー、この声は……


「……何やってるんだイシダ?」


 俺が異世界に転生するきっかけとなった女、イシダ・シラベだ。

 一応言っておくがこいつは大勢の人間を殺した殺人鬼でもある。

 どういうわけか俺と家族に執着しており度々戦うことになっていた。


 そしてこいつ、転生時の影響だろうがモンスターに変身する発明品を作り毎回色々なモンスターに変身して襲ってくるのだ。


「…………イシダじゃない。魔獣鬼デビルオーガよ。弱点は豆よ!!」


 弱点自分からバラしてるがな……

 おいおい、まさかこいつ節分しに来やがったとかじゃないだろうな。

 ガチの鬼だから娘達がまた大泣きするじゃないか。

 かと思った瞬間!!


「「「おには~そと~! ふくは~うち~!鬼め、お父さんから離れろーっ!!」」」


 娘たちが一丸となって豆をイシダ目掛けて投げつけていた。

 いや、お前達何でガチもんの鬼には勇敢なの!?


「バカな、っ!この私が!?がぁぁぁぁ!!!」


 イシダ=デビルオーガはうめき声を上げながら玄関から出ていき倒れ込み、そこで爆発し消え去った。

 おいおい、無駄に演技力高いなあいつ。多分あれが大好きな『様式美』というやつだろう。


「ちょっと、こんな所で爆発しないでよ。ご近所さんから苦情出るじゃない!!」


 アンジェラが悲鳴を上げる。


「あの人、こんな時も様式美を守るんですね……」


 メイシーが額に手を当て溜息し……


「ま、まあでも節分的には成功だよね?」


 リゼットがまとめてくれた。

 あいつ、まさかガチで我が家に節分しに来たのか?

 どんだけ暇な女だよ!?


 ていうか今爆発して消えたけど多分逃げているだけだからまたそのうち出てくるだろうなぁ……

 なんか最近では変身する際に爆薬を抱え込んで爆発をスムーズに演出できるようにしてるっぽい。


 こうして、我が家初の異世界節分はイシダの乱入により派手にはなったが体裁を保ちつつ幕を閉じた。

 いや、これでいいのか?

 そして豆は皆で年の数だけ食べていたが……


「メイシー、年の数だぞ?」


「お気になさらず。余ると勿体ないので」


 メイシーはエルフかよと思うほどにぼりぼりとたくさん食べていた。

 断っておくが彼女はエルフじゃない。

 しかもいつの間にか紅茶まで用意してるし。

 まあ、楽しかったしいいか。

 

 こうして、また家族の思い出がひとつ刻まれていくのであった。


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