04
清水が病院に担ぎ込まれたのは次の朝のことだった。
すでに自発呼吸がありません、との医師のことばを会長は怒鳴り声で封じる。
「最善のことをしろ! 病室は儂の所を使え! 手を尽くしてもヤツを死なすな」
―― ミッチ、どうしたの? ぜんぜん連絡こなくて心配してるよ。
ぐあいよくないの? だいじょうぶ?
ずっと神様にお祈りしているからね、元気出してね。
「……なんで、なんでこんなコトに」
会長は自身も病衣のままで、清水のベッド脇にひざまづき、彼の手を握って額を掛布に埋めていた。
その手には白い包帯に包まれた点滴針が取り付けられている。
点滴は数種類、しずかに彼の体内に、何か役に立つものをずっと送り続けている様子だった。
それにも知らぬふりで、清水は眠っている。
清水はむしろ、いつも以上に穏やかな寝顔で、白いベッドに仰向けに横たわっていた。
脈拍は弱く、血圧も低く、それ以外はまるっきり平穏そうにみえた。
息子が脇に立った時も、会長は気づかずに清水の掛布団に頭をうずめていた。
清水が運び込まれてから変わることなく、ずっとこうつぶやきながら。
「神さま、仏さまお願いです、どうか儂のちっぽけな命なぞさっさとお取りください、代わりにこの男をお助けください」
「オヤジ……」
肩に置いた手に、しばらくしてから会長はびくりと反応した。
「ユウスケ」
「何でこうなったか、知りたいのか?」
ユウスケの口元を会長はただ、呆然と眺めている。
「知らなかっただろう?」
「……」
雄介の目にも、涙がたまっている。
「ここんとこ毎晩聞こえてたチャルメラ、誰が鳴らしていたのか」
会長は、のろのろと清水の方に目を落とした。
「まさか」
「そうだよ、ラーメン屋の屋台を買い取って、コイツが」
「シミズが」
「オヤジに、ずっと聞かせるためだけに」
「なぜだ」
「知らねえよ。でもこれだけは言える」
雄介はゆらりと会長の目の前に立ちふさがる。
「どっかの老いぼれた死にたがりを、オレの昔っからのダチが、身体を張って止めようとしたんだ」
「……おおお」
会長が泣き崩れようとした、そのせつな
「ちょっと待ってよ!!」
病室の戸が勢いよく開いて、甲高い声が響いた。