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アナザーワールドシェフ  作者: しゃむしぇる
第一章 龍の料理人

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第六十三話

六十三話~


「ねぇボク……君の料理気に入っちゃったんだけど~。ダスティの代わりにここでボクに料理を作ってくれないかな?」


 上目遣いで私の瞳の奥を覗き込みながら魔王は私にそんなお願い……というか提案をしてきた。


 しかしながら今、私にはカミルという別の主人がいる。まだ彼女に命を救ってもらった恩も返せていない。だから私は魔王の提案に乗ることはできなかった。


「……すみません。今私にはカミル様という主人がいますので、魔王様の提案といえど受けることはできません。」


 私は魔王に深く御辞儀をしながら言った。


「じゃ……じゃあカミルが良いって言ったら……。」


「嫌ですじゃ!!」


 魔王は私が断ると思っていなかったのか、少し戸惑いながらもカミルに了承させることを思い付いたのだったが……当のカミルは即座にそれを断った。


「うぅ~……やっぱりダメかぁ~。」


「いくら魔王様のお願いとて、ここだけは譲れませんのじゃ。」


 ガックリと項垂れる魔王の下に、スタスタとシグルドは近付き、何かを耳打ちする。


「魔王様………………。」


「……!!それは名案かもっ流石シグルド~。」


 シグルドに何かを耳打ちされた魔王は何度も頷き、シグルドのことを、誉めちぎる。

 そして魔王は満面の笑みでこちらを振り向いた。


「あはっ、それじゃあ……勝者の君には褒美をとらせないとね~。」


 にやにやと笑みを浮かべながら魔王は私の方に近づいてきて、私の耳元で囁く。


「絶対君のこと諦めないから……ねっ?」


 そう耳元で囁かれた瞬間、私の背筋をぞくりと冷たいものが走り抜けるのがわかった。

 そしてそう囁いた魔王は一度私から距離をとると褒美のことについて話し始める。


「さて~、褒美は何が良いかな?何でも言ってくれて構わないよ?」


「私はこれといって特に何も……。なので私よりもカミル様に褒美を取らせて頂けませんか?」


「わかった。じゃあ君の代わりにカミルに褒美をとらせるね。」


 魔王はカミルのもとへと歩み寄り、この度の褒美について話し合い始めた。


 そんな姿を眺めていると、私のもとにシグルドが歩み寄ってきて話しかけてきた。


「魔王様はあなた様の作る料理にすっかり魅了されてしまったようですな。」


「多分今まで本当の料理を食べたことがなかったからだと思いますよ。あの、それに関して……一つ伺ってもいいですか?」


「私に答えられることであれば何なりと……。」


 私は今まで気になっていたダスティのことを、シグルドに問いかけてみることにした。


「なぜ、ダスティは魔王様の専属料理人に?」


「ダスティは先代の魔王様にいたく気に入られていたのですよ。それ故に今の魔王様に代が変わっても今の今まで勤めてきたのです。」


「なるほど……そういうことでしたか。」


 あんな腕で良く先代の魔王に気に入られたな。


「それと……彼のことならあなた様が気にする必要はありません。ダスティは先代の魔王様に気に入られても、今の魔王様には気に入られなかった……ただそれだけですので。」


 淡々とシグルドは言った。


「それに……ダスティの代わりはもう既に見つかっているようなので。」


 シグルドが言うその()()()……というのは間違いなく私のことなのだろう。彼のその視線が物語っている。


「私には既にカミル様という主人がおりますので……。」


「ほっほっほ、私はまだその代わりが()とは言っておりませぬぞ?それとも……自覚があるのですな?」


 ……墓穴を掘ったかもしれない。


 シグルドは私が返した言葉に、ニヤリと笑みを浮かべながら言った。


「魔王様の望みは私の望みでもあります。つまり魔王様があなた様を手に入れたいと願うのなら……私はその望みが叶うよう尽力いたします。それがどういう意味か……わかりますね?」


「……私を手に入れるためにどんな手段も厭わないと?」


「どんな手段も……というのは少し大袈裟ですな。少なくとも魔王様にとって不利益になることはいたしません。」


 シグルドが付け足すように言った言葉に私は、内心ホッと胸を撫で下ろした。というのも、どんな手段も厭わない……というのは()()()()()()()()()()()ということと同意義だからな。


「おっと……此度の褒美の話も一段落着いたようですな。」


 シグルドの視線を追って私も魔王達の方に視線を向けると、カミルとヴェルの二人がこちらに向かって歩いてきた。


「見よミノル!!お主が妾の従者であるという証明書じゃ!!」


「今回カミルは魔王様に褒美としてこの証明書に記名して貰ったのよ。」


 なるほど……考えたな。この証明書があれば魔王とて強引な手段で私のことを引き抜くことはできなくなるだろう。

 だが、この胸騒ぎはなんだろう?魔王が素直にこんな証明書なんかに記名をするものか?


 ……流石に疑いすぎか。


 疑心暗鬼になっていると、魔王が声を上げた。


「あぁ!!忘れてた。あとこれ……君達のエルフの国への入国許可証ね。」


「……?なんでまた妾達にこんなものが?」


「エルフの国王がカミル達に直接お礼を言いたいんだって~。明日にでも行ってみてよ。」


 そう言って魔王は入国許可証とやらを私達一人一人に手渡した。


「それじゃあこれでボクからの用事はお終い。今日は急に呼び出してごめんね?」


「とんでもないですのじゃ!!それでは……妾達はこれにて失礼させて頂きますのじゃ~……。」


 その入国許可証に軽く目を通していたら、突然カミルに無理矢理お辞儀をさせられた。そして今度は腕をとられ引きずられる。そうして私達は足早に魔王のもとを後にしたのだった。











 カミル達が立ち去った後……静まり返った部屋でシグルドは魔王に話しかけた。


「上手いこと事が進みましたな。」


「まぁね~。誰も証明書をきっちりと読まなかったし……それに一つ大きな収穫もあったよ~。」


「……?何かあったのですか?」


「あの入国許可証……2枚分は確かにカミルとヴェルの名前が書いてあったんだけど、残りの1枚には()()って書いてあるんだよね~。」


 にんまりと口角を歪めて笑う魔王の姿を見てシグルドが何かに気がつく。


「……!!」


「それをミノルはあっさりと受け取った上に……書いてある名前について何も言及してこなかった。ちゃんと目を通してたのにね~?」


「で、では……魔王様が異世界から呼び出した人間はまさか……。」


「あはっ!!ミノルで間違いないだろうね~。」


 魔王はミノルが立ち去った方を見て不敵な笑みを浮かべるのだった。

それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~

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