第五十四話
五十四話~
シルフのことを送り、カミルの城へと戻ってくると私たちのもとにマームの配下の蜂が飛んで来た。
「ん……どうしたの?」
飛んで来た蜂をぬいぐるみのように抱え上げ、マームはおでこをその蜂の額にくっつけた。そして少しの間そのままでいると、マームは何やら困ったような表情を浮かべる。
「何かあったのか?」
「うん……巣をお引越ししてるときに地下から熱いお水が溢れ出てきて困ってるみたい。」
「地下から熱い水だって?」
それはもしかして……温泉ってやつなんじゃないのか!?期待に胸を膨らませながら私はマームにあるお願いをする。
「マーム、その熱い水が出てるって場所にちょっと連れてってくれないか?」
「ん、別にいいよ?」
私のお願いをマームは簡単に了承してくれた。
「何か気になることでもあるのかの?」
「上手いことその熱い水を使えば……もしかするとこれからの生活に役立つかもしれない。」
「ほぅ?ちなみにどんな風に利用するのか聞かせてもらってもよいかの?」
「その熱い水を水浴びに使うんだ。」
水浴びという言葉にカミルとヴェルはぴくんと反応する。
「熱い水で水浴びするの?それ火傷したりしない?」
「温度は調整できる。それに温かいお湯に体を浸けるとすんごい気持ちいいんだぞ?」
「ほぅほぅ……それは気になるのぉ~。」
「というわけで、城の中のどこか一室……広い部屋を改造したいんだがいいか?」
「構わんっ!!妾が許可するのじゃっ!!」
「感謝する。」
カミルは面白そうなことには目がない。だから了承してくれるとは思っていたが、こうも簡単に了承してくれると思ってはいなかった。だが、それならそれで話が早い。
「それじゃあマーム。案内してもらってもいいか?」
「うん、こっちついてきて?」
私はマームに手を引かれ、城の裏側に案内された。城の裏側には来たことがなかったが……明らかにここにあるはずのない洞窟の入り口のような物がそこにはあった。
「あそこが入り口か?」
「うん、あそこが入り口。ミノル背がおっきいから気を付けて……ね?」
「あぁ、わかった。」
どうやら巣の入り口や内部の通路はマームの背の丈に合わせて作られているようで、私は少し屈まなければ入れそうにない。
そしてマームの案内で幾重にも枝分かれしたまるで迷路のような巣の奥へ……奥へと歩みを進めていると、件の熱い水が溢れている場所を見つけることができた。
「あそこみたい。」
「そのようだな。」
ちょろちょろと巣の外壁から漏れ出しているその水に手を差し伸べて温度を確認してみると……。
「ちょっと熱いかな。」
手で触れて少し熱いと感じるから、多分45℃~50℃ぐらいの温度だ。ちなみに普通、世間一般的に言う熱い温度の風呂……と言っても43℃ぐらいか。
「マーム、一先ずここは埋め立てちゃっていいぞ?」
「……?ミノルこれ使わないの?」
「今ここの穴を大きくしちゃったら、多分ここから下が全部水没しちゃうぞ?」
多分ここを大きくしたらもっとドバドバ水が溢れ出して、この巣が水没しかねない。そのことを伝えると……。
「それは困る。じゃあここは普通に埋め立てるように命令しておくね。」
マームがそばに控えていた蜂たちに手で何かサインを送ると、蜂たちはせっせとその穴をネバネバしたなにかで埋め始めた。
「それじゃあ一回外に出ようか。まずは城の中で広い部屋を見つけないと……話はそれからだ。」
「それならば良い場所があるぞ?古くから物置部屋として使われておったそれなりに広い部屋があるのじゃ。」
後ろに着いてきていたカミルが私にそう提案する。
「お、ホントか?」
「うむ。」
「それじゃそこを使わせてもらおうかな。カミルもそこは使ってないんだろ?」
カミルは私の質問にコクリと大きく頷いた。
そんなに都合のいい部屋があるのなら使わない手はない。その部屋を浴室に改装させてもらおうか。
そして一度マーム達の巣を後にして、私達はカミルが言っていた件の部屋に赴いていた。
「どうじゃ?この部屋なら問題ないのではないかの?」
「うん、このぐらいの広さなら問題ないだろ。」
浴槽のスペースを広く取れるし、この部屋の下はすぐ地面だ。掘り進めるのにも適している。
「それじゃマーム、さっき教えた通りにお願いしてもいいか?」
「うん、任せて。」
パチン!!とマームが指を鳴らすと何匹かの蜂が部屋の中に入ってきて、早速改装工事を始めた。
実はここに来る道すがら、マームに働き蜂を貸してくれるように頼んでいたのだ。流石に私だけでは作れないし、何より建築に関しては全く技術が無い。
一方マームの蜂はあれだけの巣を1日で構築する建築技術がある上、更には人の思考が読めるらしいから、私がイメージしている構造をそのまま読み取ってもらっている。だからほぼほぼ完成像は私のイメージ通りになる……はず。
「多分明日の朝にはできる。」
「あぁ、本当に助かったよ。」
「このぐらいなら全然大丈夫……それよりも、約束守ってね?」
「もちろんだ。明日は少しサービスさせてもらうよ。」
私は背伸びをして耳元で小声で囁いたマームに、カミル達に聞こえないような声でそう返した。
そう、この契約を取り付けるのに払った代償は明日のお菓子タイムに少しマームにサービスをすることだった。これはマームから提案してきた対価で、どうやらカミルとヴェルよりも優雅でちょっぴり豪華なお菓子タイムを味わいたいらしいのだ。
私としては簡単な対価だが……マームはそれでいいらしい。しかしこの契約……面倒な点が一つ、それはカミルとヴェルには秘密ということだ。
もし、あの二人がマーム一人にサービスをしているのを見たら文句を言い出すのは間違いない。下手したら喧嘩に発展する可能性だってある。
「…………念のため全員分用意しておくか。」
「……?ミノル、何か言った?」
「いや、なんでもない。ただの独り言だよ。」
食べ物の恨みはなんとやら……と良く言うからな。用意はしておくことにしよう。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~




