第二十九話
二十九話目です~。明日で三十話……頑張る。
「何で着いてくるのじゃ!!ここは妾の住処じゃぞ!?」
「あら?いいじゃない?ちょっとあなたの眷属の魔族を見に来ただけよ~。」
…………何やら外が騒がしい。カミルの声と……もう一つは誰だ?
書庫の外から聞こえてきた騒がしい声で私は目を覚ます。すると、ハラリと私の肩から一枚の毛布が床に落ちた。
「ん……?もしかしてカミルが掛けてくれたのか?後で礼を言っておかなきゃいけないな。」
床に落ちた毛布を拾い上げ、綺麗に畳む。そして大きく背伸びをする。それによって背骨がパキパキと音を立てた。
「さて……とどのぐらい寝てたんだ?」
書庫の窓を覆うように掛けられた厚いカーテンを開けて外を見ると、空が白み始めていた。どうやら早朝らしい。カミルに借りた本を片付け、書庫を出ようとするとこちらに向かってくる何者かの声が聞こえた。
「だ~か~ら~帰れと言っておるのじゃ~!!」
「絶対イヤッ!!私気になったものはそのままにしておけない質なの~!!さぁ、気配からしてここにいるんでしょ~?姿を見せなさ~い!!」
バン!!と大きな音と共に書庫の扉が開き、カミルと共に一人の女性が入ってきた。特徴的なエメラルドグリーンのロングヘアーに、宝石のような翠眼。そしてカミルとはまた違う豊満な体つき……俗に言う絶世の美女とは彼女の事を言うのだろう。
そんな彼女と私は目があってしまった。
「み~つけたぁ~。……ってあれ?前に見たときと外見が違うような……ま、いっか。あんたがカミルの眷属の魔族ね?」
まるで新しい玩具でも見つけたように、さぞかし楽しそうな表情を浮かべながら彼女は私の方に近づいてきた。
そう……近づいてきたのだが、ちょっと近過ぎやしないか!?
彼女はあと少し近ければ触れてしまうような位置まで私に近付き、その宝石のような翠眼で真っ直ぐに私の目を覗き込んできた。
「うっ……ちょ……ちょっと近くないか?」
「目を逸らさないの~!!」
その視線に耐えきれず、目を逸らすと彼女は私の顔を掴む。そのせいで嫌でも彼女の目を覗き込む形になってしまった。
「ヴェル!!妾の者に何をするのじゃ~!!離れるのじゃ!!」
ん?ヴェル……と言ったか?まさか、今私の前に経っているこの女性はつい昨日出会った風迅龍ヴェルか!!
カミルの言葉に私は今目の前にいるこの美女が風迅龍ヴェルが人に化けている姿だと確信した。
「ちょっとカミル!!邪魔しないでよ~あと少しなんだから~。」
じっ……と瞳の奥を見つめられていると、まるで爽やかな風が体を突き抜けていったような不思議な感覚が私を襲った。不思議な感覚に驚いていると、彼女は少し驚いたような表情を浮かべながら私の顔を掴んでいた手を離した。
「……カミル、あんたまさか自分の血をこいつに分け与えたの!?」
「そうじゃ~?何か文句でもあるか?」
驚いた表情を浮かべながらヴェルはカミルの肩を掴んで問い詰めた。
「あるに決まってるでしょ!?何でそんな危険なことしたのよ!!」
「何でって……こやつは今の妾にとってかけがえのない存在じゃからな。」
「こんなヤツのために命を懸けれるっていうの!?」
ヴェルの言葉にカミルがピクリと反応する。すると以前ライネル商会で怒ったときのように体の周りに炎が漂い始めた。
「こんなヤツ……じゃと?いくら友と言えどミノルを侮辱する言葉は許さんぞ!!」
「~~~ッ!!ごっ、ごめん……。し、失言だったわ。」
カミルの逆鱗に触れてしまったヴェルは、すぐに謝る。それを見たカミルは炎を収めた。そして鼻から一つ荒い息を吐き出し、ヴェルの事をじろりと睨み付けながら言った。
「次は無い……のじゃ。此度は友故に不問とするのじゃ。」
「…………。」
ヴェルは、うつむいたままふるふると震えていた。落ち込んでいるのだろうか?と思ったのだが、一瞬私の横目に写った彼女の顔はとても恍惚としているように見えた。
思わずもう一度彼女の方を振り返るが、やはり見間違いだったようで、しゅんと落ち込んでいる。
「さて、ミノルよ。もうわかっておるとは思うが……こやつは昨日妾達の前に現れた風迅龍ヴェルじゃ。」
「やっぱりか……。」
カミルに改めて彼女の事を紹介され、私の確信が真のものだったと改めて実感した。
「ヴェル、もう顔を上げたらどうじゃ?」
「……もう怒ってないの?」
「怒っておらん。お主がわかったのならそれでよいのじゃ。この件はこれでおしまいじゃ。」
「ありがと、カミル。……おっほん、改めて今紹介に預かった……風迅龍ヴェルよ。さっきは失言だったわ、ごめんなさいね。あなたがカミルにとってそんなに重要な存在だとは思ってなかったの。」
「私はミノル……だ。さっきのはカミルが怒っただけで、私は特に何も思っていないから……気にしないで大丈夫だ。」
改めて丁寧に自己紹介されたので、こちらも自己紹介を返す。そして自己紹介が終わると、話題が無くなり辺りを一瞬の沈黙が包んだ。
しかし、その静寂をある音が打ち破った。
ぐぐぅぅ~~~……。
「む、腹の虫が鳴いておるのじゃ。ミノル、飯じゃ!!」
「飯じゃ!!……とは言われても食材何もないぞ?」
カミルの言葉に淡々と返すと、彼女はハッとした表情を浮かべた。そして考えた末に提案してきたのは……。
「そ、そうじゃ!!中庭にモーモーが……」
モーモーって……ホルスタンのことを言ってるな?
「あれはダメだって言っただろ?お菓子が作れなくなっても良いのか?」
「うぐぐぐ……し、仕方ない。街へ行くぞミノル!!急ぐのじゃ~!!」
「はいはい、今準備するよ。」
「街に行くの~?面白そうね私も行くわ~。」
身なりを整えている私を、カミルはズルズルと引きずり急かす。数日間過ごしてみてわかったことだが……カミルは食事の事になると、途端に欲望に正直になるな。
さて……なにはともあれ街に行くのなら早速学んだアレを試す良い機会だ。存分に活かさせてもらうとしよう。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~