第百九十二話
百九十二話~
「あれ?カミルはどこに……。」
ふと隣を見てみると、先ほどまで隣を歩いていたはずのカミルの姿がない。代わりにカミルが先ほど飛ばした火の玉がゆらゆらと揺らめいているだけだった。
「カミルなら今さっき草むらに隠れてたやつのとこに行ったわよ?」
「いつの間に……。」
「ほら、そこに火の玉が揺らめいてるでしょ?さっき飛ばした火の玉は言うならばカミルの分身体。今本体は別のところにいるわ。」
おぉぅ、そんな便利なこともできるのか。アベルの空間魔法と同じような使い方ができそうだが……あれほど万能ではなさそうだな。
「この火の玉ね~、私だったら音を置き去りにして逃げられるんだけど、人間の足じゃまず無理じゃないかしら?」
「そんなに速いのか?」
「う~ん速いっていうか……なんて言えばいいのかしら。要は一つ一つがカミルとほぼ同じ感受性を持っている……。つまり意識があると言っても過言じゃないの。」
「ほぉ?つまりここにある火の玉にも意識があるってことか。」
まじまじと隣にある火の玉を眺めていると、突然その火の中にどこかの景色が映し出されそこには、こちらに向かってピースサインを送るカミルの姿と、彼女の前で土下座をする男がいた。
「あら投影魔法じゃない。カミルったらこんな魔法まで使えたのね~。」
「投影魔法?」
「そっ、あっちの様子をこっちに知らせるための魔法よ。」
なんとまぁ便利な魔法だろうか。現代風に言うとビデオ通話だろうか?……いや、あっちの声は聞こえないから通話ではないか。
便利な魔法があるんだなぁ~と感心していると、私の前で揺らめいていた炎が一段と大きくなり、人の形をかたどっていく。そして炎が弾けると次の瞬間にはそこにカミルの姿があった。
「戻ったのじゃ。」
「お疲れ様だったな。」
「あの程度妾にかかればどうってことないのじゃ。」
エッヘンと、ない胸を大きく張るカミルにアスラが問いかける。
「時にカミル、確保した人間はどうしたのだ?」
「まぁ待っておれ。さすがに位置交換ができるのは妾だけじゃからのぉ~。あっちで拘束しておるのじゃ。」
カミルがクイッと指を動かすと、森の奥の方からゆらゆらと火がこちらに向かってくるのが見えた。そしてだんだんとこちらに近寄ってくると、宙ぶらりんに拘束された小柄な男の姿まで見えてきた。
「あら、こんな小さかったのね。」
「小さいって言うな!!」
ヴェルがくすくすと笑うと、その男はそう反論する。
「拘束魔法は苦手じゃ。後はアスラお主に任せるぞ。」
「わかった。」
カミルは小柄な男を拘束していた拘束魔法を一瞬解除する。すると、男はニヤリと笑い一気に走り出した。
「ハッ!!バ~カ、わざわざ拘束を解いてくれてありがと………よ?」
「あら?どこに行くのかしら?」
「なっ!?」
走り出した男の目の前に突然ヴェルが姿を現す。
「逃げられるものなら逃げてみるといいわ~。ほら、好きなとこに行きなさいよ。」
「チッ!!これでも喰らえ!!」
男は隠し持っていた最後の脱出手段の煙玉を地面に投げつけた。すると辺り一帯がもくもくと濃い煙に覆われる。
その隙に男は一気に走り出す。
「ハハッ!!これなら追ってこれないだろ。…………は!?」
煙玉を使ってまでヴェルを撒こうとした彼だったが、前を向くとまたしてもそこにはヴェルの姿があった。
「面白いもの持ってるのね~。……まぁ私には効かないけど。」
風の力を自由自在に操れるヴェルの前では煙玉は意味を成さない。なぜなら一瞬で振り払ってしまえばいいだけの話だからだ。
「くそっ……~~~ッ!?」
すぐに踵を返して後ろを振り向いた彼だったが、先ほどまで後ろにいたはずのヴェルが先回りしていた。
「さっきので奥の手はお終いかしら?ならそろそろ追いかけっこはお終いね。あんたとの追いかけっこつまんないし。」
「うっ!?」
突然ヴェルの姿が視界から消え失せたかと思うと後ろから声が聞こえ、彼の意識が急に遠のいていく。
「ふぁ~あ……準備運動にもならないわね。これならシルフが乗っかったミノルのほうが速かったかも。か~えろっ。」
気絶した男の首根っこを掴みずるずると引きずりながら、ヴェルは皆のもとへと戻る。
そして無事男はアスラの拘束魔法によって完全に拘束され、アスラが拘束を解かれない限り逃げることはできなくなった。
「こやつも王国騎士とやらなのかのぉ~。」
「さぁな。ひとまずノアかゼバスにでも聞いてみようか。」
王国騎士のことは内情に詳しいあの二人に聞くのが一番だからな。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~




