第百八十二話
百八十二話~
「うぅっ!!あやつらのあの姿を見ると寒気がするのぉ~。」
「んね?ただでさえ寒くなってきてるのに、あれはもう今年の冬を越すのは大変そう。」
一枚残らず鱗をはがされピンク色のドラゴンに成り果ててしまったウルとボルトの二人を見て、カミルとヴェルは哀れみの視線を向けた。
「二人はその……おしおきってのがどんなのか知ってたんだろ?」
「まぁの、妾達の前に三龍と呼ばれていた龍達が先代の魔王様に刃向かってあぁなっていたからのぉ~。」
「なるほどな。」
自分自身の鱗を抱えながら、ウルとボルトはシグルドさんに連れられてどこかへと行ってしまう。
それを見送ったアベルがこちらにやって来た。
「いや~、予想外も良いとこだったね。年季が入ってたから封印の綻びが弱くなってたんだって。だから出てきちゃったみたい。」
「なるほどな。理解した。」
彼等が出てきた瞬間、シルヴェスターの仕業かと疑ったが……。よくよく考えてみればシグルドさんがただの人間に遅れをとるわけないしな。
考えすぎだったな。
「彼等の鱗って……また生えてくるのか?」
「うん、十年もすれば完全に元通りになるんじゃない?」
十年……か。また長い年月が必要だな。
「まぁ、鱗が生え揃っても~五龍には戻さないけどね。やっぱりアスラとカミルとヴェルの三龍で充分だよ。」
「私もその考えには賛成だな。」
もう逆らわない……と言わせたとしても、本当にその言葉が信じられるかと言ったらそうではないからな。
「で?ウルとボルトはシグルドさんとどこに行ったんだ?」
「一応、ちゃんと刃向かった罪は償わせないとね。シグルドには今、ノアのホムンクルスの所に向かってもらってる。」
「ホムンクルスの所に?それと罪といったい何の関係が?」
「簡単な話だよ~。彼等の魂をノアのホムンクルスの体に移すだけ。そうすれば彼等の本来の力を出すことはできなくなるし、なんならただの人間と変わりなくなっちゃうからね。」
「ほぉ~……そんなことができるのか?」
「うん、ちゃんとそういう魔法があるんだよ~。…………禁術だけどね。」
今ボソッと禁術と言う言葉が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
うん、気のせい気のせい…………。
「さて、それじゃあ気を取り直して~次の街に行こっか?」
「そうだな。」
次の街の王国騎士の人達は簡単に降伏してくれると良いんだが……。
◇
「一対一の真剣勝負を申し込むっ!!」
次の街に着くなり、その街に常駐していた全身に鎧を纏った王国騎士が私達の前に出て来てそう言った。
やはりそう簡単には降伏を受け入れてはくれないらしい。
なかなか上手く物事は進まないものだと、ため息を隠せないでいると……。
「うん、いいよ~?どちらかが戦闘不能になるまででいい?」
「それで構わない。」
コクりと王国騎士がアベルの言葉に頷くと、彼は腰に提げていた細い刀身の剣を抜いた。
それに対して、アベルはいたずらに微笑むだけで構えすらとっていない。
「……構えないのか?」
「ボクのことは気にしないでいつでもおいで~?」
「くっ……舐めるなっ!!」
鎧の兜の中から怒気を含んだ声を響かせると、王国騎士は鎧をつけているとは思えないスピードでアベルに向かっていく。
「あはっ♪え~っと……技名は~どうしよっかな~?」
「隙ありッ!!喰らえッ!!」
う~んと悩んでいるアベルに細い剣の鋭い突きが放たれる。そしてアベルの肌に触れる直前……。
「あっ!!良いの思い付いた!!」
アベルは半身体をずらして突きをかわすと、にんまりと口角を歪めながら拳を振り上げた。
「アベル流奥義~……鎧壊しぃ~!!」
「~~~ッ!?」
アベルがノリノリで技名を言いながら放った拳は、王国騎士に触れる直前で寸止めされた。
「…………?…………??」
自分の体に何も起きていないことに不思議がる王国騎士だったが……次の瞬間。
パァァァァンッ!!
「ふえ?」
「あはっ♪大成功~☆」
王国騎士の身に起こった出来事に、思わず私とノノ、そしてノア、ゼバスは目を手で覆い隠した。
というのも、王国騎士の……彼女の鎧がその下に着込んでいた衣服もろとも突然消し飛んだからだ。
「きゃあぁぁぁッ!?」
思いもよらない形で裸体を晒すことになってしまった彼女は、大事なところを手で隠してうずくまってしまう。
そんな彼女にアベルは毛布を被せ、笑顔で問いかけた。
「ボクの勝ちで良いよねっ?」
「うぅっ……ぐすっ……ぐすん……。こくっ……。」
にこやかに微笑むアベルとは対照的に、大粒の涙をこぼしながら彼女は頷いた。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~