第百七十八話
百七十八話~
一度着火した火というのは回りが早く、私たちが子供たちに向けて料理を提供しているという噂は、あっという間に街中に広まった。
そしてその噂を聞き付けた街の人々が今度は私たちの前に行列を作っていた。
「勇者のおねーちゃん!!いっぱい連れてきたよ!!」
最初に街の方からこちらを眺めていた子供が頬に米粒を付けながらノアに言った。その子の後ろには街の人たちが大勢行列を作っている。
「うんうん、ありがとね。」
よしよしと、ノアは子供の頭を優しくなでる。すると、その子の後ろから両親らしき二人の大人がこっちに歩いてきた。
「あ、あの……本当にご飯を頂けるんですか?」
「はいっ!!ご飯を配る前にちょっとした質問に答えていただければ、すぐにお渡ししますよ。ゼバスさん、ちょっと手伝ってくれませんか?」
「承知いたしました。」
「えっと、それじゃあ一家族ごとに集まって並んでくださ~い!!」
ノアの言葉に従って、世帯ごとにまとまって彼らはノアとゼバスの前に並び、私が用意した問診票に記載されている質問に答えていった。
そしてグループ分けを行っている最中、彼らの姿を見てアベルがポツリと呟いた。
「うわぁ~……ここだけでこの前ピースに送った人と同じぐらい人がいるんじゃない?」
「だろうな。大きい街にはそれだけ多くの人間がいる。魔族でもそれは同じだろ?」
「まぁそうなんだけどさ~…………ってねぇ?ボクらって今からあの人たちの分のご飯も作んなきゃいけない感じ?」
「当り前だろ?でもさっきとやることは何ら変わりないから安心しろ。むしろ一度経験してるから、より手際よくできるはずだ。」
「やっぱりだよねぇ~……。」
がっくりと肩を落とすアベル。
「まっ、そう肩を落とすなって。これも平和のため……だろっ?」
「う~……わかったよぉ~。」
「さ、ぱっぱと追加を作るぞ~。」
アベルの背中を押して、再び調理を始める。やはり思った通り、さっきの経験があるから手際は良い。
そしてある程度調理行程を終えたところで、私はアベルに声をかけた。
「そろそろアベルも配給の方に回って良いぞ?」
「えっ?いいの?」
「あぁ、あらかた終わったからな。後はノアと一緒に配給に回ってくれ。」
「あはっ♪やった~!!」
喜びながらアベルはノア達に混ざりに行った。そして再び調理を始める前に、私はノノに言った。
「ノノ、疲れてないか?」
「えへへ、大丈夫です!!」
こちらを振り向いて笑顔でノノは答える。
「もし疲れたら言うんだぞ?」
「わかりました!!でも、ノノはお師様と二人で料理をしてたいんです。」
顔を赤らめ、少しモジモジとしながらもノノは私の手にしゅるりと尻尾を巻き付けてきた。
いつもなら遠慮してこんなにくっついてくることはないんだが……昨日一緒にお風呂に入ってからというものの、どこかノノの様子がおかしい気がする。
「あ、あぁ……そうか。」
「えへへ……えへへへ♥️」
尻尾を巻き付けながら、嬉しそうにノノは笑みを浮かべる。語尾に♥️マークが見えるのは……多分気のせいだろう。
一先ず、なんとか尻尾から解放してもらい、私達は調理を進めた。
そして食事がみんなに行き渡り、彼等が食事に舌鼓をうっているのを満足そうに眺めていると……街の方から二人の人影がこちらに向かってくるのが目に入った。
ロイゼとカーラだ。
彼らはノアとアベルの方に歩いていくと、彼女達の前で立ち止まり口を開いた。
「……我々の降伏を受け入れていただきたい。」
そう言って二人はノア達の前に跪いた。
「敗北を喫してから、改めて考えさせてもらった。……そして今、この街に住んでいる皆の姿を見て確信した。」
「今のあなた方は敵ではないこと……そして本当に和睦を望んでいることを。」
二人は口々にそう言って頭を垂れた。
そんな二人にアベルはけろりと、あっけなく言う。
「うん、いいよ~。それじゃ、はいこれ。」
あっさりと降伏を受けてくれたことにポカンとしている二人にアベルは私が作った問診票を渡した。
「これは……?」
「今の街の住民の人達の健康状態を知るための紙です。五個以上当てはまる人は、人間と魔族とが共存する街ピースでの療養をさせた方が良いと思います。」
「なるほど……。」
「つまり、私達は街の人々一人一人にこれに書いてあることを聞いて廻れば良い……ということですか。」
「そういうことです。」
彼らは問診票に目を通しながら頷く。
「ま、詳しい話はそこで座りながら話そうよ~。君達もお腹空いてるでしょ?ボクもお腹すいたし~?ねっ?」
彼等の降伏を快く受け入れたアベルは、彼等と食事を共にしながら今後について話し合いをするのだった。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~