第百七十一話
百七十一話~
ピースに来たついでにアベルたちの炊き出しの手伝いをしていた最中、おずおずとした様子でアベルが私に話しかけてきた。
「あ、あのさミノル……。」
「ん?どうした?」
「さっきのお肉ってやっぱりもう食べれないの?」
「これのことか?」
私はインベントリからさっきのステーキを取り出した。しかし、さっきとは違う点が一つあり、アベルもそれを見て驚いた表情を浮かべた。
「あれっ!?ど、毒はどこ行っちゃったの?」
「毒はこっちだ。」
またしても私はインベントリからさっきの毒の液体が入った瓶を取り出した。
「もどって……る?」
「そう言うことだ。」
からくりは至極簡単な話だ。あの毒液をかけた後抽出の魔法で再び毒を瓶の中へと戻した。それだけだ。
まぁ、抽出の魔法を使えたからこそできたことだがな。もし使えないというのであれば絶対に自分が作った料理に毒を盛るなんて所業はできないが……。
「もちろんちゃんと食べれるぞ?」
私はステーキを一切れフォークで刺して口へと運ぶ。いい塩梅の塩が利いた美味しいステーキだ。そしてぺろりとそれを平らげるとアベルの方に向き直った。
「なっ?」
「も~……びっくりして損した気分だよ。いっつも口酸っぱ~くボク達に食材を無駄にするな~って言ってたからさ。」
「ま、何の算段もなしにあんなことはしないさ。安心してくれ。」
まぁ、でももうあんなことをすることもないだろうがな。あの貴族という肩書きを語って、威張り散らしてた小太りの男も赤っ恥をかいてどこかに走り去って行ってしまった。
ただ、街の外に出た……という報告は受けてないから、なんだかんだ自分の命が惜しいんだろうな。
「それでも、よく毒なんて持ち歩いてたね?何の毒なの?」
「ピッピの尻尾の蛇の毒だ。」
「うわ……ってことはコカトリスの毒ってわけ?ちなみにそれ……上級魔族でもあっさり死んじゃうぐらいヤバイやつだよ。」
「わかってる。でも何かの役に立つときがあるかもしれないと思ってな。この瓶一本分だけ持ち歩いてるんだ。」
この前みたいに、どっかの誰かさんに急に戦えって言われるかもしれないからな。
アベルに説明しながら、朝の配給を終える。
「これで朝の分はおしまいだな。」
「いや~ホント助かったよ。ありがとねミノル。」
「ありがとうございましたミノルさん。」
配給を終えると二人にお礼を言われた。
「このぐらいどうってことないさ。二人は……後昼と、夜の分も配給を続けるんだろ?」
「うん、そうだね~。最近カミル達がボクの代わりに魔物退治もしてくれてるし……正直今のボクの仕事ってこれぐらいしか無いんだよね~。」
あはは……と苦笑いを浮かべながらアベルは言った。
アベルとノアの二人を弟子に迎えてからというものの、カミル達三龍は、もともとアベルがやっていた魔物退治を代わりに請け負ってくれているのだ。
だからもっぱら、最近はアベルに全然仕事が回ってこないらしい。
カミルとヴェルの二人は、良い運動になる……と喜んで魔物退治をやっているしな。
「でも、私はアベルが手伝ってくれるから。すっごい助かってるよ?」
「そぉ?」
「うん!!」
ノア一人でこの人数の配給をするってなると……少し厳しいところがあるからな。
「ちなみに明日ぐらいから段階的に少しずつ、配給する食事は変えてくからな?」
「え、じゃあもう明日からお粥じゃなくなるの?」
「お粥も作る。ただ、今日より量を少なくしてな。それでも、まぁ多分……二人じゃ回しきれなくなるから、私とノノも手伝うことになるな。」
お粥も作って……更に他の料理まで作るってなると、流石に二人では人手が足りない。だから明日からは私のノノも手伝いに来なければいけないだろう。
「ミノルさんとノノちゃんが手伝ってくれるなら、もう安心ですね。」
「あぁ……明日の献立は今日の夜、二人がご飯を食べに来たときに打合せするからそのつもりでな。」
「りょ~か~い。あ、ボク今日お魚がいいな~?」
上目遣いでアベルは私に今晩は魚が良いとおねだりしてきた。
「魚な、わかった。」
となれば、今日はウルジアにでも買い出しに行ってくるか。新鮮な魚ならあそこが一番良いのを揃えてる。
「それじゃ、私は戻るが……また何か問題があったらすぐに呼んでくれ。」
「うん!!ありがとね~!!」
「ありがとうございました!!」
二人に見送られながら、私はアベルが開いてくれた空間の中へと入りカミルの城の自室へと戻ってきた。
すると、ノノが私の事を待っていた。
「お疲れさまでしたお師様!!」
「お?起きてたのかノノ。」
「はいっ!!」
「さて……じゃあ今日はアベルが魚を食べたいらしいからな。ウルジアに買い出しに行こう。カミル達もそろそろ戻ってくる頃だろうしな。」
そして私とノノはウルジアへと魚を買いに向かうのだった。
それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~