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アナザーワールドシェフ  作者: しゃむしぇる
第一章 龍の料理人
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第十一話

十一話目ですね~。

 全てのキラーフィッシュの鱗を梳き取った後は、お腹に包丁を入れて内臓を取り出す。そして内臓も綺麗に抜けたら、血合いに切れ込みを入れて固まった血をこそげおとすように魚のお腹をきっちりと洗う。

 ここまでの一連の作業を()()()という。


「良し、後は水気をしっかりと拭き取って三枚に下ろせばいいな。」


 布でしっかりと水気を拭き取ったキラーフィッシュを綺麗にしたまな板の上に並べていく。


「ミノル、三枚に下ろす?とはなんじゃ?」


「今からこのキラーフィッシュを二つの身と骨だけに分けるんだ。まぁ見ててくれ。」


 三枚下ろし……というワードに首をかしげるカミル。言葉で伝えるよりも今から実際に目の前でやってみせてあげよう。


 包丁を柳刃包丁から出刃包丁に変え、キラーフィッシュの背中に一本背骨に沿って切れ込みを入れる。そしてその切れ込みを中骨まで届かせたら、今度は同じようにお腹の方にも切れ込みを入れる。

 後は真ん中で繋がっている中骨を切り離せば……。


「ほい、これで一枚。」


「おぉ!!」


「次で一気に二枚、三枚といくぞ。」


 驚くカミルの傍らで今度は反対側の面も同じように下ろす。そして、まな板の上に二枚の身と一枚の骨に分けられたキラーフィッシュが現れた。


「これで一、二の、三……だろ?」


「すごいのじゃ!!綺麗に骨だけが真ん中に残っておる。」


 カミルは綺麗に下ろされぺらっぺらになったキラーフィッシュの中骨を見て目を輝かせている。


「いったいどういう理屈なのじゃ?妾には何にも特殊には見えなかったのじゃが……。」


「何にも特殊なことはしてないぞ。ただ魚って生き物の骨の構造を理解していれば誰でもできるさ。」


 三枚下ろしを上手くなりたい、もしくはいったいどういう理屈なのかを知りたいのなら魚の骨の構造を理解すればいい。

 私はカミルの前で残りの三匹も手早く三枚に下してみせた。キラーフィッシュ自体の魚体は大きいが、ふつうの魚と何ら変わりない体の構造だからあっという間に終わってしまう。


「さて、これであと残っている骨はここだけになったぞ。」


「よく歯に挟まってくるちっこい骨じゃな?いやこの大きい骨ならばたやすくかみ砕けるのじゃが……このちっこいのは弾力があってなかなか噛み切れんのじゃ。」


 うんうんと頷きながらカミルは言った。散々この小骨に苦労してきたことが言動から読み取れるな。まぁ確かにこの血合い骨と呼ばれる骨は先端が細く鋭いから歯の間に挟まりやすいだろう。それにカミルが言っていた通り弾力もあってなかなかかみ砕けない。


 そして今からやるのがこの小骨を取り除く作業だ。柵取り……とも呼ばれている作業だな。


 血合い骨に沿って包丁を入れて切り離す。ただこれだけの作業だ。こんなに大きい魚体じゃなければ骨抜きで血合い骨を一本一本抜いてもいいが……ちょっとこいつの骨を抜くのは辛そうだからな。


 こうした作業工程を経てようやくキラーフィッシュが一本も骨が残っていない、柵と呼ばれるものに変化する。


「これで良し。……そういえばカミル、これを生で食べてお腹を壊したりしなかったか?」


「う~む、小骨が喉に刺さったことは何度もあるが……腹を壊したことはないのぉ~。」


 ということはこいつは生でも食べられる魚なのか?普通湖とか川とか淡水に棲んでいる魚っていうのは寄生虫のせいで生じゃ食べられないものなんだが……。この世界の川や湖に寄生虫はいないのか?う~ん、わからない。


 頭を悩ませていると頭の中にある考えが浮かんだ。


 そうか、こういう時の鑑定ってやつだろ。そうと決まればさっそく……。


「鑑定」


 そう意思をもって言葉を発した私の前に、湖で野草を採取していた時に散々お世話になったあの画面が表示された。そこには……。


 ・キラーフィッシュ

 肉食で凶暴な水棲の魔物。基本的に群れで行動し、時には自分の体よりも大きな相手にも集団で立ち向かうこともある。

 身は白身だが、肉食ということもあり脂ののりは良好。

 旬は産卵期間近の秋。

 生食可。


「ほぅ?生で食べられるのか。」


 やはり地球の常識は通用しないな。湖の魚が新鮮なうちに生で食べられるなんて……あっちじゃできないことだ。

 生で食べられるなら一品は決まりだな。後のメニューは……。


 鑑定結果を見ながら今日のメニューを組み立てていると、カミルが恐る恐る私に質問をしてきた。


「ミノル……お主まさか鑑定も使えるようになったのかの?」


「ん?あぁ、なんかあの湖で野草を探してたら勝手に使えるようになったぞ?」


「……ありえん。やはりお主にはこの世界の常識が通用しておらんらしい。普通魔法は魔導書を読むなり、誰かに教えを乞うなりして学んだ末にようやく使えるようになるものなのじゃぞ?」


「そういわれてもな……。」


 たじたじとする私にカミルは詰め寄り話を続けた。


「さらにじゃ!!お主が覚えたそのインベントリに鑑定は上級魔法じゃ。並みの者では一生かかっても覚えられんわっ!!」


「そ、そうなのか?」


 そういわれると、なんか申し訳ない気持ちになるな。普通の人が一生分の努力をして得られるようなものをこうもあっさりと……。


「……これも異世界人の力というやつなのかのぉ~。まったくますますお主に興味がわいてきたわ。」


 こちらを見てカミルはさぞかし楽しそうにくつくつと笑う。異世界人の力……か。私自身それが何なのかはわからないが……まぁこの世界で暮らしていくうちにわかってくるだろう。


「さ、さて……そろそろ料理の続きをしたいから離れてくれると助かる……ぞ?」


「おぉ、これはすまんかったのぉ~。つい好奇心が抑えられなかったのじゃ。」


 苦笑いしながらカミルは私の料理の妨げにならない場所に下がってくれた。


 ……ふぅ、こ、これでようやく料理が続けられそうだ。さっきみたいにあんなに顔を近づけられたままでは危なくて包丁を動かせたものではなかった。

 

 さて、これで料理を続けられるな。まずは一品……手早く仕上げてしまおう。


それではまた明日のこの時間にお会いしましょ~

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