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9.蒼井奈津美

 一小では年に一度、保護者による学年対抗バレーボール大会が開かれている。PTAバレーボール部が中心となって執り行うこの行事に長女が入学したその年に奈津美のもとにも参加の依頼があった。それがきっかけで奈津美は小学校のPTAバレーボール部に入った。

 由幸とは大会前の練習日に始めて出会った。数少ない父親だったため、由幸の存在は目立った。由幸とは違う学年だったため同じチームではなかったのだけれど、大会後の打ち上げ会場が由幸たちの学年と同じだった。

「PTAの活動にはよく顔を出されるんですか?」

 最初に声を掛けたのは奈津美だった。

「いや、たまたまカミさんが怪我しちゃって代わりに出てくれって頼まれたもんで」

「でも、バレーお上手でしたよ」

「体育の授業でしかやったことはないんだけどね」

 PTAの集まりに初めて参加した由幸は慣れない環境の中で戸惑っていた。そこに話しかけられて次第に打ち解けて行った。

「連絡先を交換してもらってもいいですか?」

 そう声を掛けたのは奈津美の方だった。それ以来、二人はたまに食事をしたりカラオケに行ったりして親しく付き合うようになった。


 PTAバレーボール部の練習は週に1回。午後7時から9時の二時間行われている。

「すみません。出掛けますので子供たちをお願いします」

 奈津美がバレーボールの練習に行くときには亭主の洋介に子供たちの面倒を見てもらっていた。

「早く帰って来いよ」

「はい」

 そうやって毎回洋介に気を遣いながら練習に参加していた。

 最初の頃は洋介も協力してくれていたのだけれど、次第に仕事で帰りが遅くなるようになった。奈津美は仕方なく、子供たちも一緒に練習に連れて行くようになった。そんな時、由幸からメールが入った。

『今日はバレーだよね。練習終わった後に軽くどう?』

『子供と一緒なので今日は無理です』

『一緒に連れて来ればいいじゃん』

 こうして奈津美は子供と一緒に由幸と会うようになった。不愛想な父親に比べて子煩悩な由幸に子供たちもなつくようになると、奈津美と由幸はいっそう親しく付き合うようになった。


 子供たちが高学年になって、留守番出来るようになると、奈津美は子供たちを置いて家を出ることが多くなった。夏休みに入ると奈津美は子供たちを連れて奈津美の実家に泊まることになった。

「今日は地元の同窓会があるから遅くなるの。だから子供たちをお願いね」

 そう実家の母親に頼んで家を出た。


 奈津美が訪ねた先の店には由幸が居た。

「今日はゆっくり出来るんだよね」

「はい。子供は実家にお泊りなので」

「じゃあ、遅くなっても大丈夫だな」

「はい。大丈夫ですよ」

 奈津美と由幸は食事をしてカラオケに行った。そろそろ電車が無くなる頃に奈津美が席を立とうとすると、由幸は奈津美の腕を掴んで言った。

「タクシーで帰ればいいじゃん。もうちょっと付き合えよ。ほら、もっと飲めよ」

 子供たちの心配がないので奈津美は由幸の言う通りにした。そのうち、酔いが回ってきて奈津美は眠り込んでしまった。


 目が覚めた奈津美は仰天した。裸でベッドの中に居たのだ。そして、隣には同じように裸の由幸が居た。ベッドのわきには精液が入ったままの避妊具が置きっぱなしになっている。時計の針は午前4時を回ったところだった。この状況がどういうことなのか奈津美はすぐに理解した。ベッドから飛び出た奈津美はすぐにシャワーを浴びた。けがれた体を綺麗にしたかった。そして、服を着るとそっと部屋を出ようとした。その時、ベッドから声がした。

「帰るのか? まだいいじゃん。始発が走るまで居ろよ。ほら、来いよ。もう一回しようぜ」

「私、こんなつもりでお付き合いしてたんじゃないですよ。もう、高坂さんと会うのは終わりにします」

「そんなこと言っていいのか? 言うことを聞かないとこれをばら撒くぞ」

 そう言って由幸は携帯で撮影した写真を奈津美に見せた。それは奈津美の顔がはっきり判る角度で二人がつながっている写真だった。他にも何枚かそういうたぐいの写真が撮られていた。

「やるなら勝手にどうぞ。私はこのまま警察に行きます」

 強気の奈津美に由幸は狼狽えた。そして急に態度を変えた。

「ごめん! 悪かったよ。俺、アオちゃんのことが好きなんだ。もうこんなことはしないからこれからも付き合ってくれよ。ほら、写真も全部消すから」

 写真が全部削除されたのを確認して奈津美は部屋を出た。そして、タクシーを拾って実家に戻った。

 写真は削除したけど、この事実は消すことが出来ない。これから由幸とはどう付き合うべきか考えているうちに奈津美は眠りに落ちた。


 


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