45.蒼井奈津美・桐谷修二
奈津美は涙が渇くのを待ってクラブハウスに戻った。既にチームのメンバーが揃っていて奈津美を待っていた。
「アオちゃん、遅いよ。これからみんなで飯食いに行くけどアオちゃんも行くだろう?」
宮本が声を掛けた。
「はい」
奈津美はそう答えて笑顔を見せた。
「荷物、持ってやるよ」
由幸が奈津美のバッグを受け取った。
「おい、抜け駆けはするなよ」
宮本が由幸に詰め寄り、奈津美のバッグを奪い取った。
「どっちでもいいから早く行きましょう。おなかぺこぺこ」
「おい、遅れてきたお前が言うな」
宮本と由幸が声を揃えて行った。三人は顔を見合わせて笑った。
「あの子がみぃこ?」
ベンチで修二の横に座った麻子が尋ねた。
「まあね」
「解かるわ」
「なにが?」
「どう見ても魔性の女よ。あの子は」
「初めて会ったのに、よくそんなことが言えるな」
「女の感よ」
修二は苦笑して、グラブを持つとグランドに出た。春の日差しを浴びて修二は思いっきり背伸びをした。視線の端に宮本と由幸に挟まれてクラブハウスを出て行く奈津美の姿を捉えた。
「これでよかった」
修二は心の中で呟いた。試合が始まり、修二はマウンドに立った。第一球、修二は思いっきりボールを投げた。そのボールはバックネットのはるか上まで飛んで行った。
「こらー! まじめにやれー!」
麻子の声がグランドに響く。
<完>