34.中山利治
「へー、女性の部長になったんだ…」
修二から連絡を受けたK地区第二中学校の窓口である中山利治は女性の部長というのに興味を覚えた。翌日、早速その女性部長からメールが入った。
『以前、桐谷さんがやっていた対抗戦を復活させようと思います。ご協力いただけるならご連絡をお願いします』
そこに、彼女の携帯電話番号とメールアドレスが記されていた。中山はすぐに返信した。
『それは楽しみです。ぜひ協力させていただきます』
中山からの返信を受けて奈津美は安堵した。これで修二から引き継いだ5校の窓口の全員から快く承諾を得ることが出来た。その誰もが『桐谷さんにはお世話になったので…』という一文が書かれていた。中山以外は。奈津美は修二の人望を再認識した。そして、その中山のことは修二から少し聞いていた。「女癖が悪いから、気を付けた方がいい」と。それを聞いた時、奈津美はそういう人間の方が自分にとっては都合がいいかも知れないと思った。案の定、中山からの返信メールには『機会があれば一緒に飲みましょう』というようなことが書かれていた。
『これか会えますか?』
彼女からの返信を受けて中山の下心が疼きだした。幸い、今日は休日でもある。中山は自分の行きつけの店に彼女を呼び出した。
中山が待っていると、それらしい女性が店に入って来た。店には他の客は居なかったので、その女性はすぐに、そこに居るのが中山だと察したようで、中山の方に歩いていて来て「中山さんですか?」と尋ねた。中山は頷いた。
「蒼井さんですね」
「はい」
「思っていたより可愛らしい女性で驚きました」
「まあ! どんな鬼ババアだと思っていたんですか?」
「鬼ババアだなんて…。ただ、中学生の子供がいる母親なら相応の年齢でしょうから。蒼井さんがあまりにも若いので驚いたんですよ」
中山は彼女の体を上から舐めるように見て行った。「いい女だな」そう思いながら。
「まあ、どうぞ。座ってください」
彼女は席に着くなり、話を切り出した。
「中山さんは桐谷さんが現役でやっていた頃からずっとソフトをやっているんですね」
「桐谷さんは何事にも前向きで、常に先のことを考えて行動する人でしたから、尊敬していますよ」
「そうなんですね。それで、対抗戦を復活させるのについてですけど、中山さんがウチといちばん付き合いも古いし、経験もあるみたいなので、グループのリーダーとして協力していただけたら心強いなと思っています」
「それは光栄ですね。ところで、桐谷さんはPTAにはもう関わっていないんですか?」
「当時の役員たちの方針でOBは切るということになってクラブチームを作ってからはPTAにはかかわっていません…」
それを聞いて中山は密かにほくそ笑んだ。
「でも、今のチーム事情を考えると、桐谷さんが必要だと思ったので私が部長になったタイミングで桐谷さんを監督として迎えました」
「なんだよ…」
「えっ?」
「あ、いや、なんでもないです」
修二が監督として復帰したと聞いて、中山はがっかりした。修二が傍に居るなら、彼女がどんなにいい女でも簡単にちょっかいを出すわけにはいかない。そして、彼女に下心を抱いて呼び出したなどと言うことが修二に知られたら文句の一つや二つでは済まなくなる。修二がそういうところは堅い男だということも中山は認識していた。
「じゃあ、今後は桐谷さんの主導のもとで強かった時の一中さんが復活するんですね」
「そうなるといいと思っています」
そんな話をしながら、小一時間経った時、彼女は「ちょっとお手洗いに行ってきます」そう言って席を立った。中山のわきを通り過ぎようとした時、ふら付いて中山に体を預けるような格好になった。
「ごめんなさい。ちょっと酔ったみたいで…」
「大丈夫ですか?」
そう言って中山が彼女の体を支えると、彼女は虚ろな目をして中山を見つめた。そんな彼女を見て中山は下半身が疼きだした。けれど、ぐっと堪えた。
「そろそろお開きにしましょう」
中山がそう言うと、彼女は意外な言葉を口にした。
「酔いを醒まさないと帰れません。少し休める所へ連れて行ってもらってもいいですか?」
中山は彼女の言葉の意味を図りかねた。しかし、男としての本能が思考を停止させた。