32.宮下和也
奈津美から連絡を受けた宮下が、指定された店に行くと既に奈津美が奥のテーブル席に座っていた。宮下は席に向かう途中で生ビールを注文してから奈津美の向かいの席に着いた。
「ごめん、遅くなっちゃった」
すぐに生ビールが運ばれてきた。宮下はジョッキを掲げて、既に置かれている奈津美のグラスを指した。
「取り敢えず、お疲れ様。それで聞きたいことって?」
「宮下さんは昔のソフト部のことをよくご存じの様だったので色々と聞きたくて」
「ああ、あの頃はよかったよ。人数も多かったし、チームも強かったから…」
そう切り出してから宮下は当時のことを話し始めた。
当時のチームには修二や利光、博仁それに哲も居て修二と利光が中心になってチームをまとめていたという。最初はPTAの大会に出てもなかなか勝てなかったのだけれど、このチームは試合経験が少ないから場慣れしていない。それが試合で出てしまうから、実力を発揮できない。そう分析した修二が自信がPTA会長をやっている関係で交流のある他校の会長を通じて練習試合をどんどんやり始めたという。それが功を奏してチームはどんどん強くなったのだと。
「それから今はもうやらなくなったけど、桐谷さんが区内の各地域からそれぞれ何校かを集めて対抗戦って大会もやっいてたから、楽しかったなあ」
「対抗戦ですか?」
「そう! うちが主催してうちのグランドで開催してたんだ。優勝カップまで作ってさ」
「優勝カップまで?」
「そう。最後になった大会で優勝したのがうちだから、倉庫のどこかにその時のカップがまだあるんじゃないか?」
「そうなんですね…。ところで、その大会はどうしてやらなくなったんですか?」
「桐谷さんの後に会長に就任した人がそんなものは必要ないって止めてしまったんだよ。そして、OBの参加も認めないって言っちゃって。それで、桐谷さんたちはクラブチームを立ち上げたんだ」
「あの、その大会を復活させることって出来ないでしょうか?」
「Pの本部が何て言うか…。それに他校の窓口も当時とは違っているだろうし、連絡を取る手段がないよな…。会長になった柿崎さんが協力してくれるならなんとかなるかも知れないけど」
「桐谷さんはまだ当時の人たちとはつながっているんですか?」
「ほとんどの学校がクラブチームを作っているから、そっちの関係で今でも交流していると思うよ」
「そうなんですね…」
奈津美はしばらく何かを考えているように黙り込んでから、急に表情を変えて口を開いた。
「宮下さん、ありがとうございます。あの、今日はこの後もお時間ありますか?」
奈津美が見せた満面の笑みに宮下はドキッとした。
「ああ、別に予定はないけど…」
「では、カラオケでも行きませんか?」
「いいね! 蒼井さんは歌、上手そうだもんね」
「そんなことはないですよ」
宮下は店を出るとタクシーを拾って奈津美とともにJRの駅前まで行った。そこで行きつけだというカラオケボックスに奈津美を誘った。二人で交互に曲をかけては何曲も歌った。そのうち、横に座っていた奈津美が宮下によりかかってきた。
「どうしたの? 具合でも悪くなった?」
「ちょっと酔ったみたいです」
「そうか…。じゃあ、そろそろ帰ろうか?」
「少し休めば大丈夫です。でも、ここでは…」
そう言って上目遣いの奈津美に見つめられた宮下は理性を失った。
「わかった。取り敢えずここを出よう」
部屋に入ると、奈津美はベッドの上に倒れ込んだ。宮下が声を掛けても起きる気配はなかった。
「服がしわになるから上着だけでも脱いだ方がいいよ」
宮下がそう声を掛けると、奈津美は虚ろな目で宮下を見つめて呟いた。
「宮下さんが脱がせてください」
宮下はそんな奈津美を見て抑えていた欲求が溢れ出た。
終わったとき、奈津美は正気だった。彼女は酔ってはいなかった、最初からこれが目的だったのではないか…。宮下はそう思った。だとしたら、これから楽しくなりそうだと。
「このことは誰にも言わないでくださいね」
「もちろんだよ…。ねえ、また二人で会ったりとかできるかな?」
「それは宮下さん次第です」
ホテルを出た宮下はその場で奈津美と別れ。「一緒に居るところを見られたらまずい」という奈津美の言葉に頷いて一人で歩いて帰った。歩きながら奈津美の体を思い出しながら心を弾ませた。
奈津美は宮下と別れると、修二の行きつけの店に顔を出した。カウンターの奥に修二が居た。
「あれ?どうしたの」
「ここに来たら会えるかなって…」
「会えたね」
「はい、会えました」
「今日のみぃこはなんか特に綺麗だね」
「そんなことはないですよ」
修二の隣に座った奈津美は甘えるように修二に体を預けた。