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28.吉永小百合

 修二が奈津美を追って店を出るとすぐに携帯の着信音が鳴った。奈津美からのメールだった。

『そこをすぐに抜けることは出来ますか?』

 修二はメールでの返信ではなくて、電話を掛けた。奈津美はすぐに電話に出た。

『蒼井です』

「みぃこ、もう店は出た」

『本当ですか?』

「ああ。トシが心配して様子を見に行けっていうから」

『トシさんが?』

「そうだ。少しは落ち着いた?」

『はい。落ち着いてはいますけど、お店にはもう戻りたくありません』

「じゃあ、今日はもう帰る?」

 歩きながら修二は奈津美に追いついた。奈津美は通りの端で物陰に隠れるようにして携帯電話を耳に当てている。

『いつものお店に行きたいです』

「解かった。じゃあ、乗って」

 修二の声はもう受話器からではなく、直接聞こえてきた。奈津美が声の方を振り向くと修二がタクシーを止めたところだった。修二に引き続き、奈津美も素早くタクシーに乗り込んだ。


 利光は絡めた文江の手を一旦ほどいた。すると、文江はまた、今度は軽く利光の腕に触れてきた。

「お腹すいた。何か食べたい」

 文江が利光にねだった。

「だったら、ラーメンでよかったんじゃねぇの」

「二人になりたかったの」

「じゃあ、どこ行く? この時間やってるって言ったら…」

「お寿司」

「いや、そんな金はねえよ」

「私がご馳走するから」

 文江に押し切られるような形で利光は通りを渡った向かいにある寿司屋へ行った。


 孝之は小百合とラーメン屋に来ていた。

「おやっさん、ビール! グラスは二つね」

 孝之は取り敢えず、瓶のビールを頼むと小百合と向き合った。

「まだバレーやってたんだ」

「あなただってまだソフトやってたんだ」

「しかし、この間カラオケで会ったときは驚いたよ」

 小百合が孝之のグラスにビールを注ぐ。

「あのお店に行ったのはたまたまよ。アオちゃんと文江はよく行ってるみたいだけどね」

 今度は孝之が小百合にグラスにビールを注ぐ。グラスを併せる。お互いに一口ビールを飲む。

「そっか。お前がカラオケで歌を歌うってイメージは全くなかったからな」

「あなたこそ、相変わらず同じ歌ばかり歌ってるのね」

「もう、10年経つか…」

「そうね。10年くらい経つかしらね」

「新しい家族はどうなんだ?」

「まあまあよ。旦那は2年前に死んじゃったけどね」

「えっ? そうなのか?」

「あら、未練が湧いてきた?」

「いや、そんな…」

「私はいいわよ。もう一度一緒になっても。結局、子供は出来なかったから、今となってはそれが幸いだわ」

 小百合は孝之の顔を見つめながら、うっすらと笑みを浮かべた。


 10年前、子供が出来ないことを理由に小百合と孝之は離婚した。当時、診察を受けた病院では孝之に種がないという診断結果だった。離婚後、小百合は再婚したのだけれど、新しい夫との間にも結局、子供は出来なかった。孝之は離婚後、すっと独身で居た。


「子供は諦めるのか?」

「もう年だもの。それに、今、廻りに子供みたいなのがいっぱいいるし。あなたも含めてね」

「俺な、ちょっと、なっちにちょっかい出そうとしたことがある」

「ああ、あの子は仕方ないよ。可愛いしね。でも、あなたじゃ手におえないわよ」

「どういうこと?」

「会う人みんな好きになっちゃう子よ。好きになったらなりっ放しで後始末もせずに、どんどん次に行くからトラブルが絶えないのよ。今日もあの子のことで二人揉めてたでしょう」

「あ…」

「あら、まだ何か心当たりでも?」

「おれ、修二になっちを押し付けちゃった…」

「監督さんに? あの人の奥さんってピーナッツのキャプテンよね?」

「ピーナッツ?」

「監督さんの奥さんが入ってるバレーチームの名前よ。そっか…。彼ね…」

 小百合は意味ありげな笑みを浮かべた。


 


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