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24.西川哲

 利光が切り出した言葉に哲は敏感に反応した。

「なっちがどうかしたんっすか?」

 利光がチラッと哲を見た。そして更に言葉を続けた。

「実はバレーボールとの両立は難しいということで、このクラブチームの方は遠慮したいとのことなんだ」

「それだけですか?」

 少し、ホッとした表情で哲が聞き返した。

「まあ、家のこともあるし、お母さんは何かと忙しいんだ。ただ、せっかくみんなとも馴染んできたところだから、時間があるときには自由に顔を出してくれってことにしたいんだけど、みんなそれでいいよな?」

「なんだ、そんなことで呼び出されたのか?」

 少し拍子抜けしたというように口を挟んだのは飯塚和彦(いいづかかずひこ)だ。チームではキャッチャーをやっている。

「いや、それはついでで、今日は秋の大会に向けての決起集会というのが目的だ」

 すかさず修二が話を切り替える。夏の大会は一回戦敗退だった。

「秋こそは優勝しようぜ」

 利光が付け加えると、メンバーは夏の大会を振り返り、反省点を上げ始めた。そこそこ話が盛り上げってきたところで、成瀬啓介(なるせけいすけ)が唐突に切り出した。啓介は三塁手で1番バッターだ。

「今日はなっちは来ないの? なっちも呼んだらいいんじゃない? 短い期間だったけど、一緒に練習した仲間なんだし」

「そうだよ! アオちゃんも呼ぼうよ。俺が連絡してみるよ」

 そう言って由幸は携帯電話を手に取った。

「だめだ。留守電になってる」

 由幸が携帯電話をしまったところで修二にメールの着信があった。奈津美だった。

『高坂さんから電話がありました。高坂さんも一緒ですか? そちらはどうなっていますか?』

 修二はチラッと内容確認して、この雰囲気なら奈津美を呼んでも大丈夫なのではないかと思った。

「一応、声はかけてるからそのうち来るかも知れないよ」

 修二がそう言うと、哲が席を立った。

「すいません。ちょっと用事を思い出したんで、これで失礼してもいいっすか? 持ち合わせもあまりないんで」

 哲は財布から千円札を取り出すと、それを修二に渡して店を出た。それを見て修二は奈津美にメールをした。

『みぃこが辞める件を利光が報告した。みぃこの件はそれだけ。後は秋季大会へ向けての決起集荷間ということで盛り上がってる。そしたら、啓介と高坂がみぃこも呼ぼうということになって、それで高坂が電話を掛けた。それから、哲は今、先に帰った。そっちに行って待ち伏せしているかもしれないから気を付けて』

 メールを終えたとこで博仁が席を立った。

「哲が心配だから、ちょっと見てくる」

 そう言って修二と利光に向かって目配せをした。博仁の真意を修二も利光もそして孝之も察したので黙って頷いた。

「なんだよ、キャプテン。あいつもガキじゃねぇんだから、大丈夫だろう」

 そう言ったのはショートを守っている佐藤研二(さとうけんじ)

「いや、今日はなんか妙に悪酔いしてるみたいだったから。大丈夫そうだったら戻って来るから」

「まあ、キャプテンはあいつの保護者みたいなもんだからな」

 研二も博仁や哲と同じ地域に住んでいる。

 修二のもとに奈津美からメールがあったのはその直後だった。

『だとしたら、私は出られません』


 博仁が哲の後を追うと、案の定、哲は奈津美のマンションの前に居た。

「おい! 何やってんだ? こんなところで」

「あ、いや、なんでもないっす」

 しらばっくれる哲を博仁は一喝した。

「いい加減諦めろ。あの子はお前には気が無いんだから。もう、あの子に付きまとうのは止めろ。そうじゃなきゃ警察沙汰になるぞ」

「そうなんっすかねぇ…。ヒロさん、どっかにいい女いないっすかね?」

「いいから来い!」

 そう言って博仁は哲を引っ張って行った。


 博仁は哲を別の店に連れて行った。

「お前、今日は本当ならお前がなっちにしたことをみんなに報告するはずだったんだぞ。そしたらお前はクビになるところだったんだからな。修二とトシに感謝しろよ」

「だって悪いのはあっちでしょう?」

「だから、なっちにチームを辞めてもらうことにしたんだよ。だから、お前もちゃんとしろよ」

「もういいっすよ。なんかソフトもつまんなくなったんで、俺も辞めます」

「なんでそうなるんだ?」

「面倒くさいっす」

「じゃあ、勝手にしろ! やる気のないやつに居られてもみんなが迷惑するだけだ」

「ところで、ヒロさん。もう一杯飲んでもいいっすか?」

 博仁は呆れて哲の顔を見た。そして、ことの顛末を修二にメールで報告した。




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