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22.桐谷修二

 奈津美から連絡があったのはそれからしばらく経ってからだった。

『私、クラブの方は辞めようと思います。PTAでも練習は出来るので。私が居るとチームにご迷惑が掛かるし、バレーの方もおろそかには出来ないので』

 奈津美に声を掛けた修二にしてみれば、納得がいかない。きっと、博仁が言ったことを気にしているのに違いない。修二は。会って話をしようと奈津美に返信した。


 修二が行きつけの店で待っていると、間もなく奈津美もやって来た。店は珍しく賑わっていた。奈津美は一旦、修二の隣に座ったものの、辺りを見回して修二を見た。

「ここでは落ち着いて話が出来ません」

 奈津美の言う通り、ボックス席には団体客が居てカラオケが始まっていた。

「じゃあ、どこか別のところへ行こうか? どこか行きたいところはある?」

「どこでもいいです。修二さんと二人だけでゆっくり話が出来るところなら」

「そう…。じゃあ、個室のある所へ行こうか」

「はい」

 修二はマスターに詫びて、店を出た。


 奈津美はいつものように少し離れたところをついて来る。修二が駅の方へ向かおうとした時、メールの着信があった。後ろからついて来る奈津美からだった。

『駅の近くの方には行きたくないです。お店ではなくてホテルに行くのはだめですか?』

 修二は一旦、立ち止まって後ろを振り向いた。奈津美も立ち止まって携帯電話を見つめている。

『では、この前のホテルで』

 修二からのメールを確認したのか奈津美は携帯電話を閉じると、今来た道を引き返し始めた。


 ホテルの前で素早く奈津美の手を取って中に入った修二はフロントで鍵を受け取ると、エレベーターのボタンを押した。部屋はこの前と同じ部屋。二人並んでベッドに腰かけた。

「チームを辞めるって?」

「はい。ヒロさんの言う通り、私が居るとチームに迷惑が掛かりますから…」

 修二が思っていた通り、奈津美は博仁に言われたことを気にしていたようだ。

「それに、哲さんのこともあるので、チームとは距離を置いた方がいいんじゃないかと思います」

「それだと、余計に哲がまとわりついて来るんじゃないのか?」

「そうかも知れませんが、私がチームに居なければ、哲さんもそのうち私のことは忘れると思います」

「だったら、いいけど…。せっかく誘ったのになんか辛い想いばかりをさせたみたいで申し訳ないな」

「いいんです。修二さんが居てくれれば。そして、こんな風に会ってくれたら、私はそれでいいです」

 修二が奈津美を見つめると奈津美はそっと目を閉じた。


 翌日、修二は奈津美がチームを辞めると利光に話した。

「なんで? なっちは何も悪くないだろう。今、辞めたらなっちが悪者になっちまうぞ」

「だけど、みんながヒロと同じように思っているんだったらあの子だって居辛いだろう」

「みんながそう思っているかどうかは判んねえだろう?」

「あの子が普通にしていても哲やタカは態度に出るだろう。そしてら、みんなだって変に思うよ」

「お前、本当にそれでいいのか? お前はなっちと一緒に居たいんじゃないのか?」

「そりゃあ、あの子を誘ったのは俺だけど…」

「そうじゃなくて、お前ら付き合ってるだろう!」

「付き合ってるって…」

「何年お前の親友をやってると思ってるんだ?」

 修二は返す言葉がなかった。

「俺がなっちに話してやるよ。ちょっと今から呼べよ」

「今から?」

「ああ。今からだ。それと哲とタカにヒロ…。いや、全員に召集掛けろ」

「全員って…」

「そうだ! みんなの考えを聞いた方がいい。どのみち、なっちが急に辞めたとなると、みんなだって理由を聞いてくるだろう」


 監督である修二からの緊急招集に、ほとんどのメンバーが集まった。もちろん、孝之も博仁も。そして哲も。だた、奈津美はまだ来ていない。少し遅れるとの連絡があった。利光は修二の顔を見た。

「本人が来てないけど、先に始めるぞ」

「ああ。初めは彼女が居ない方がいいと思う」

「解かった…」

 利光は頷いて修二に耳打ちした。

「お前、なっちにわざと遅れてくるように言ったんじゃないのか?」

 苦笑した修二の表情を見て利光はニヤッと笑い、軽く修二を小突いた。

「今日、集まってもらったのはなっちのことなんだけど…」

 利光の話から奈津美に関する話し合いが始まった。



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