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2.桐谷修二

 普段は貸し切り状態のこの店がこんなに混み合っていることは珍しい。修二はカラオケの映像を見ながら彼女たちの歌をおとなしく聞いていた。ところが他の二人は歌いたくてうずうずしているようだ。

「これじゃあ、歌の順番回って来ねえな」

「でも、入れなきゃ永遠に回って来ねえよ」

 孝之と利光がそんな会話をしていると、団体客の中の一人がこちらへやって来た。

「騒がしくてすみません。よかったら皆さんも歌ってください」

 そう言ってデンモクを差し出した。

「あ、ありがとう」

 ババアばっかりだと言っていた利光が急に低姿勢で礼を言った。彼女はにっこり微笑んで席に戻った。


 修二たちにも歌の順番が回って来ると、バレーのグループも一緒になって盛り上がった。

「ねえ、お兄さんたちもこっちへ来ませんか?」

 どこからともなくそんな誘いがあった。利光は喜んでグラスを手に取り席を移った。

「ほら、他のお二人もどうぞ」

 そう言って席を開けてくれたので二人は苦笑しながら席を移った。


 時間が経つに連れて、バレーのグループは徐々に人数が減っていった。閉店時には5人になっていた。

「ラーメンでも食って帰るか。お姉さんたちも一緒にどう?」

「いいんですか?」

 そこで帰った二人以外の三人は利光の提案に乗って修二たちと一緒に、朝までやっているラーメン店へ行くことになった。


「皆さんはどんな関係なの?」

 利光が彼女たちに聞いた。

「えー、今更? バレーボールのクラブチームよ。もう! 知ってたくせに。逆に、あんたたちはどんな関係なのよ?」

 グループのリーダー格らしい女性が声を上げて利光に絡む。

「あー、俺らはソフトボールチームの仲間で、ちなみに俺がピッチャーでエース。で、こいつが監督で、そっちがチームの4番バッター」

「へー、みんなすごいんですね!」

 もう一人の年配の女性も乗ってきた。

「ところで、何てチームなんですか?」

 修二が聞く。実は修二の妻もバレーボールのクラブチームに入っている。そして、このチームがそうではないのは判っていた。

「フライングママってチーム名よ。飛んでるママって意味。笑えるでしょう? ねえ、じゃあ、そっちのチーム名は?」

 リーダー格らしい方が答えた。同時にこちらにも聞き返してきた。

「ウィーズっていうんだ。雑草って意味だよ」

 得意げに利光が答える。実際、チーム名を考えたのは修二だった。正式にはWeeds。

「そう言えば、自己紹介してなかったな。俺、比留間(ひるま)利光。さっきも言ったけど、エース。それで、こいつが桐谷修二、監督兼二番手ピッチャー。で、これがセンターで4番の牛丸(うしまる)孝之」

「えっと、比留間さんに桐谷さんに牛丸さんね。まあ、たぶん店を出た時には忘れちゃってるかも知れないけどね」

 そう言って笑いを誘いつつ、リーダー格の女性が自分たちの方のメンバーを紹介した。

「私は一応、キャプテンの吉永(よしなが)小百合(さゆり)…」

「えっ! ウソ?」

 大女優と同じその名前を聞いて修二たち三人は冗談かと思って声を上げた。

「これ、本名だからね。父が吉永小百合の大ファンで、たまたま名字が吉永だったから小百合って名前にしちゃったのよ。で、彼女が柴崎文江(しばざきふみえ)、アタッカーよ。で、この子がセッターの

蒼井奈津美(あおいなつみ)。若そうに見えるけどけっこういい年なのよ」

「小百合さん、一言多いです」

 奈津美が照れくさそうに小百合に言った。この子がカラオケパブで最初に修二たちのところへ声を掛けてくれた子だった。彼女が歌以外で口を開いたのは多分、その時以来ではなかっただろうか。きっと普段はおとなしい子なんだろうと思って修二は奈津美の方を見た。すると、奈津美の修二の方を見ていた。一瞬目が合い、すぐに逸らした。


 ラーメン店を出た時には既に空が明るくなりかけていた。

「それじゃあ、皆さん、また縁があれば」

 これまでずっと場を仕切っていた利光がそう告げて解散となった。修二も自宅へ向かって歩き出した。すると、後ろから声を掛けられた。

「あの…。一緒に帰ってもいいですか? 方向が同じなので」

 奈津美だった。

「いいですよ。でも、こんな時間に二人で歩いていたらまずくないですか?」

「大丈夫です。バレーの飲み会はいつもこんな感じなので」

「そう。だったら僕はかまいませんけど」

「ありがとうございます。それで…。あの…。私、桐谷さんのこと好きになってもいいですか?」

「えっ!」




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