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15.牛丸孝之

 修二のもとに孝之からメールが入った。

『ソフトのことで確認したいことがあるから、なっちの連絡先を教えて欲しい』

 修二は一応、奈津美に確認するからと孝之に返信した。

『孝之がソフトのことで確認したいことがあるから連絡先を教えてくれと言ってるけど、どうする?』

 そう奈津美にメールをすると、奈津美からはすぐに返信があった。

『タカさんになら、いいですよ』

 それを受けて修二は奈津美のメールアドレスを教えた。修二から返ってきた奈津美のメールアドレスには“みぃこ”とあったので孝之は修二が奈津美のことをそう呼んでいるのだとすぐに理解した。それはつまり、二人がそういう仲なのだということも理解した。


 孝之はすぐに奈津美にメールをした。

『修二に許可をもらったのでメールします。ソフトのことで色々確認したいので、一度会えませんか?』

 奈津美からはすぐに返信が来た。

『私も相談したいことがあるので、是非一度二人でお会いしたいです』

 孝之はその日の夜、自分の行きつけの店で奈津美と会う約束をした。


 仕事が終わって店に直行していた孝之のもとに奈津美からメールが入った。店の場所が判らないというので孝之は近くまで奈津美を迎えに行った。

「取り敢えず何か頼んで」

 奈津美は孝之のグラスを見て同じものを頼むと言った。ライムサワーが奈津美の前に置かれると、孝之はグラスを掲げた。

「お疲れさま」

 二人はグラスを併せて乾杯した。

「なっちは歌がうまいんだなあ」

「いえ、私なんて、全然へたくそですよ」

「なっちがへたくそなら俺なんかはクソのクソだな。まあ、それは置いといて、ファーストを真剣にやってみたいならファーストミットを買った方がいいよ」

 いきなり孝之にそんなことを言われても奈津美はまだそこまでのことを考えてはいなかった。たしかに、それはそうなのだろうと思うのだけれど、ファーストミットを買う余裕などない。すると孝之がこう続けた。

「なっちがもう少し上手くなれば、俺がオーダーメイドのファーストミットを作ってやるよ」

「えっ? 本当ですか?」

「ああ。もう少し上手くなればだけどね」

「頑張ります!」

「おう、頑張ってみな。ところで、なっちが相談したいことって?」

 孝之に聞かれると、奈津美は急に神妙な面持ちになった。

「実は私、ストーカーにあっているんです」

「マジで? 相手は知ってるヤツ?」

「はい、タカさんも知っている人です」

「誰?」

「哲さんです」

 孝之は驚いた。確かに先日のカラオケの時の哲の様子は尋常ではなかった。奈津美はこれまでの哲との経緯を孝之に話した。そして、脅迫メールが毎日のように届いていることも。今日届いたばかりのメールも孝之は見せてもらった。

「信じられないな。修二には話したの?」

「桐谷さんにも迷惑がかかるかも知れないので、まだ話していません」

「このメールにもあるけど、なっちは修二と付き合ってるの?」

「そんなことはありません。これは哲さんの勘違いです」

「うーん、難しい問題だな。一度、修二に話したほうがいいよ。あいつほど頼りになるヤツは居ないぜ」

「いえ、今はまだ話さないでください。話すときは私から話しますから」

 この奈津美の話を孝之はどう判断すればいいのか迷った。


 それからしばらく他愛のない話をしながら二人で飲んだ。

「そろそろ行こうか」

「はい。哲さんが待ち伏せしているかもしれないので、タカさん、マンションの前まで送ってくれますか?」

「いいけど」

 二人で歩いているところを哲に見られたら孝之にも迷惑がかかるからと、奈津美は人気のない川沿いの遊歩道から行こうと言った。孝之は奈津美の言うことが本当なら、自分に降りかかる迷惑より、奈津美自身のことの方が心配だったので、奈津美の言うことに従った。

「タバコを吸ってもいいですか」

 遊歩道の中ほどに差し掛かった時、奈津美が言った。孝之もそう思っていたので少し休むことにした。孝之が自分のタバコに火をつけようとした時、奈津美が孝之に抱きついてきた。酔ったように装っているようだが、孝之にはそれが芝居だということが判った。

「ふざけたことをするな!」

 孝之は奈津美を振り払い一人でその場を去った。一人残された奈津美のもとにメールが届いた。

『見てるぞ』

 哲からだった。




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