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14.西川哲

 2回目の練習、孝之は奈津美の様子を見ていた。そして、休憩時間に奈津美に声を掛けた。

「ファーストをやってみないか?」

「ファーストですか?」

「キャッチングが上手だから」

「やってみたいです」

「解かった。監督には俺から言っておくから」

 それから、孝之はマンツーマンで奈津美にファーストの守備を教えた。それが面白くないのは哲だった。元々ファーストは哲のポジションなのだ。そこに奈津美が入る。それ自体はかまわない。本大会の試合に奈津美は出られないのだから。哲が面白くなかったのは外野手の孝之が自分を差し置いて奈津美に教えていることだった。


 修二は由幸のポジションをどうしようか悩んでいた。内野はどこもポジションが固定されている。だから、取り敢えず、外野をやらせることにした。由幸は走るのが早かったから。

「いやー、フライを取るのって結構難しいですね」

「慣れだよ」

 そう言って修二は練習時間の半分を由幸にノックした。

「ところで、アオちゃんはファーストにするんですか?」

「当面は。いずれはピッチングを覚えてもらおうと思ってる」

「ピッチングですか?」

「彼女、PTAでもやるんだろう? だったら女性はピッチャーがいい」

「へー、そうなんですか。じゃあ、俺、キャッチャーやりたいな」

「そうか、高坂君もPTAか」

「そうなんですよ。アオちゃんとはいいコンビだと思うんですよね」

 それを聞いた修二は苦笑した。高坂のその言い方が奈津美と自分の仲をアピールするような言い回しに聞こえたからだ。


 練習後の飲み会の席。奈津美は孝之の隣で守備のコツやバッティングのことを熱心に聞いている。孝之もそんな奈津美に丁寧に教えながら談笑している。そんな二人のことが面白くないのは哲だった。

「そろそろ歌でも歌おうぜ」

 哲の隣に居た由幸が言い、曲を送信した。ノリのいい曲に場はカラオケムードに変わっていった。哲も得意な曲を何曲か披露しては由幸とハイタッチしたりして意気投合していた。そんな時だった。

「タカさんは歌わないんですか?」

 奈津美が孝之に尋ねる。

「歌える局は1曲しかないんだ」

「それは何ですか?」

 奈津美に聞かれて孝之は昔のドラマの主題歌だった曲のタイトルを言った。

「いいじゃないですか。じゃあ、それを入れますね」

 曲が始まって孝之が歌い出すと、由幸が奈津美にデュエットを申し出た。それを見た哲が顔をしかめた。今まで仲良くしていた由幸に対して奈津美のことでライバル心が芽生えたのだ。由幸は仕事が朝早いため遅くまでは居られない。そんな事情もあって奈津美とのデュエット曲を割り込みで入れた。しかし、タイミングが悪かった。次が哲の曲がかかる番だった。真面目に順番を待っていた哲がようやく歌えると思ったところに割り込まれた。しかも、奈津美とのデュエットだ。

「おい! こら! ふざけんなよ」

 哲が怒鳴ったのにもかかわらず、由幸は無視して歌い始める。しかも、奈津美の肩に手を回した。とうとう哲がキレた。哲は由幸に掴みかかり、一触即発の状態になった。修二はその場を鎮めようと一旦二人を外へ連れ出した。利光と孝之、そして博仁も同行する。修二が哲を、利光と孝之が由幸を宥めた。けれど、由幸はそのまま帰ってしまった。由幸が帰ったことで哲はようやく落ち着いた。


 店に戻ると他のメンバーは心配そうに修二たちを見た。

「高坂くんは?」

 由幸が居ないのに気が付いた修二が利光に聞いた。。

「あいつは朝が早えから今日はもう帰るって」

 利光が答える。

「まあ、ちょっと白けたけど、仕切り直しだ。なっち、もっと歌ってくれよ」

 孝之は奈津美のことが気に入ったようで、しきりに奈津美に話しかけている。


 その後は修二と博仁が哲の相手をしながら、事無きを得た。店の閉店と同時に解散すると、博仁が哲を連れて先に帰って行った。最後に残った修二と奈津美はいつものように二人で並んで歩いた。既に深夜だ。人通りはもうなかったから。

「今日はマンションの前まで送ってください」

 哲が待ち伏せしているかも知れない。そう思った奈津美は修二にそう頼んだ。マンションの裏口に着くと辺りを見回して、誰も居ないことを確認すると奈津美はいつものように修二にお休みのキスをした。

「じゃあ、気を付けてね」

 そう言って修二は奈津美に手を振って帰って行った。そして、奈津美がマンションへ入ろうとした時、物陰から現れた誰かに腕を掴まれた。哲だった。




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