10.蒼井奈津美
修二たちのチームは月に一度、地元の中学校の校庭を使用させてもらい練習を行っている。その月に一度の練習日が学校行事と重なると、練習も中止になる。そんな感じで練習が中止になった日曜日の前日、利光からメールがあった。
『明日は練習も中止だから今夜は一杯やろぜ』
その時、修二は会社の研修旅行で伊香保に来ていた。
『この土日は旅行だって言っただろう』
そう返信した。
『そうだった! じゃあ、他のメンバー集めてこっちはこっちで楽しくやるよ』
利光からの返信を受けて修二は奈津美のことが頭に浮かんだ。
始めて奈津美と由幸が練習に参加した日、修二たちは毎度のことで練習後に行きつけの居酒屋へ繰り出した。修二は奈津美にも声を掛けたのだけれど、そこまでの準備はしていなく、家のこともあるからとその時はそう断られた。その後で、奈津美からメールが来た。
『皆さんとも仲良くなりたいのでまた今度誘ってください』
そのメールのことが修二の頭に浮かんだ。そこで、利光から誘いがあった飲み会のことを奈津美に伝えてみた。もちろん、その飲み会の席に自分は居ないことも。
『参加したいです』
奈津美がそう返信して来たので修二はそのことを利光に伝えた。
『大歓迎!』
飲み会の場所と時間を確認してから修二はそれを奈津美に伝えた。
飲み会に参加していたのは利光、孝之、由幸、そして、キャプテンの杉浦博仁と西川哲に奈津美を加えた6人だった。奈津美は少し遅れて合流した。奈津美が顔を出すと、由幸が目の色を変えた。
「アオちゃん、来たんだ! こっち、こっち」
そう言って由幸は奈津美を自分の隣に座らせた。奈津美にしてみれば付き合いの古い由幸が居たことで少し気持ちが楽になった。奈津美が席についたところで、利光がグラスを一つ追加してもらいビールを注いだ。
「じゃあ、揃ったところで改めて乾杯!」
利光の音頭で一同グラスを併せた。
「あれっ? 今日、監督は来ないんすか?」
そう聞いたのは哲だった。哲はこのチームで一番若い。
「あいつは旅行で伊香保に居るよ」
「参ったなあ。俺、今日は金持ってないっすよ。いつも監督が払ってくれるから、今日もそうだと思って」
「いいよ。じゃあ、今日は俺が出しといてやるよ」
キャプテンの博仁が哲にそう言った。そもそも哲をチームに誘ったのは博仁だった。
「ヒロさん、すんません」
哲は申し訳なさそうに博仁に頭を下げた。
「そんなことは気にすんな。せっかくみんな集まったんだから。さあ、飲もうぜ」
由幸がそう言って場を盛り立てた。由幸は自分より年下の哲には強気で居られる。
二次会はいつものカラオケホール。由幸は次の日に朝から用事があると言って途中で帰った。それからも、カラオケは盛り上がった。
「なっち、なんかデュエットしようぜ」
哲が奈津美に声を掛けた。哲からすると奈津美も年上なのだけれど、外見が実年齢よりかなり若く見える奈津美を哲は自分より年下だと思っていた。また、奈津美も哲が好むような曲をよく知っていた。カラオケは二人の独壇場になった。それを尻目に利光と孝之、博仁の三人はソフトの話題で熱弁を振るっていた。
「そろそろ終わりにしてくんない?」
マスターに声を掛けられ、飲み会はお開きとなり、それぞれ店の前で別れた。
「なっち、どっちに帰るの?」
「私はこっちです」
「じゃあ、俺たちと同じだ。一緒に帰ろう」
哲がそう言うと、博仁も頷く。
「はい。いいですよ」
カラオケで意気投合した哲の申し出を、二人だけならちょっと考えたのだけれど、どうやら博仁も一緒らしいということもあり奈津美は承諾した。三人は大通りを歩いた。修二と帰るとき、奈津美は手前の路地を一緒に歩く。その路地に差し掛かった時、ふと修二の顔が思い浮かんだ。
途中、その大通りに面した24時間営業のファミリーレストランがある。
「酔い覚ましにお茶でも飲んでいきませんか?」
そう言って二人を誘ったのは奈津美だった。もう少し哲と話したい。そんな気持ちもあった。
「いいっすよ。ねっ、ヒロさん。明日は休みだし」
「ちょっとだけだぞ」
三人は少しだけ寄り道して帰ることになった。既に深夜2時を回っていた。