表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友情! 努力! 欲望!  作者:
【第五章】友情! 努力! 欲望!
13/16

13.拉致されまして。

 どれくらい気を失っていたんだろう。


 目を覚ますと、今までよりも景色に薄暗しさを感じた。


 何気なく、ちらりと視線を上に向ける。


 壁にかけられた時計から、今が午後の四時だということがわかった。……ん、四時……?


「やっべ、もう放課後じゃん!」


 何てこった……時間がないっていうのに!


「ぐッ!」


 だが、なぜか体が動かなかった。


 視線を落とすと、椅子の上に腰を下ろし、ロープで体を縛りつけられている自分の体があった。隣には同じように固定された和樹の姿も。


 どうやらここは、どこかの教室らしい。


「――お目覚めのようだね」


 声は、前方から聞こえてきた。


 体制を直すと、そこには男子生徒が一人。


 目立った特徴はなく、どこにでもいそうな高校生という印象だ。


 ……気のせいかな? 見覚えがあるような……。


「ここに野球部から借りたバットがあるんだが」

「そうだな、それで頭を割ってやろうぜ」

「甘いな。まずは全身の骨を砕いて……」


 その背後にもまた、数人の男子生徒が。


 悍ましい会話を繰り広げていたのは、昼休みに俺たちを襲った何とか隊の戦闘員だった。


「「「なぁ、お前はどうする篠崎?」」」


 と、思いきやなぜかそいつらは俺に制裁方法を尋ねてきた。


 だが、視線は俺たちの前の男子に向けている。


「だから何度も言っているだろう! 僕の名前は篠崎じゃないんだって!」

「……あっ!」


 ここで俺は思い出した。目の前の男子のことを。


 そう……あれは入学式。身代わりになってくれた、名前も知らない『偽物』の俺。


「お前は……篠崎君(偽)!」

「そ、それは君のことだろう! 僕の名前は」

「なるほど、お前がⅢ組の頭なんだな!」

「あ、ああ……うん。そんなことよりも僕の名前」

「「「そうだ! 篠崎は親衛隊長なんだぜ!」」」

「うん説明ありがとう。でもタイミング考えてね」


 彼が親衛隊長とは意外だ。てっきり大人しい感じの生徒かと思ってたけど。

 ……人は見かけによらないなぁ。


「それにしても、何で親衛隊長なんかに?」

「おお、よく聞いてくれた。……あれは君のお陰でズタボロにされた入学初日の放課後。僕は寮に辿り着く前に力尽きてしまった。その時、だった。彼女が手を」

「「「くたばれクソ野郎どもッ‼」」」


 痺れを切らした戦闘員たちが、一斉に駆け出した。


「もうワザとだろ! 絶対ワザとだろぉぉ!」


 そんな篠崎君(偽)の嘆きに意識を向けている暇はない。今は身の確保が優先だ。

 だが、頼みの綱であるエロ本は入学初日にだいぶ消費したため、引っ張り出せる位置にない。


 ……くそおっ、こんなところでくたばるわけにはいかないんだ! 桃源郷がっ、思春期男子の夢の世界が待っているんだ! こんな……こんなところでッ……!


 バタンッ!


 鈍い音が、室内に響き渡る。

 けどそれは、戦闘員による攻撃ではなかった。


 力強く開け放たれた、扉によってだった。


「「「突撃いいいッッ‼」」」


 複数の声。どれも聞き覚えのあるものだった。


 それら一つ一つを思い返そうとする思考を遮断するように、現れた謎の人物たちによって、俺と和樹は椅子ごと担がれた。


 そのまま廊下に出て、教室から離れていく。


「ったく、世話が焼けるぜ!」


 下から聞こえてくる声。


 それらは間違いなく、Ⅱ組の男子たちだった。


 先ほどまでいた教室の前にはほかの仲間たちの姿もあり、必死に扉を押さえつけていた。


「お、お前ら……!」

「そんな情けねえ顔すんなって。俺たちはエロ本の礼を返しに来ただけさ。それにこれはエロ本のためでもある」

「お前にもしものことがあったら、隠し持ってるエロ本にまで被害が出るだろう? エロ本にそんな悲しい思いをさせたくない」

「俺たちはエロ本を心から愛しているんだ」


 こいつらにとってエロ本って生物かなんかなの?


 ……でも助かった。ありがとうエロ本。


 思春期の心を癒してくれるだけでなく、奮い立たせる効果もあるなんて、本当に素晴らしいものだ。人々はエロ本の価値を見直す必要がある。


 いつか公の舞台でそう宣言することを心の中で誓っていると、見慣れた教室に帰ってきた。


「あ、やっと帰ってきた――って、何ですかその格好!?」

「これまた派手にやられたっすねえ」


 中には、まだクラスメートが二人だけ残っていた。

 芙蓉と椎名だった。


 二人は降ろされた俺に駆け寄ってくると、すぐに縄を解いてくれた。続いて和樹のを……解いた。


 少し間があったのは、縛りつけておいた方が世の中のためになると考えたからだろう。


「ありがと、二人とも」

「サンキュー、助かったぜ」

「はいはい。それじゃ結衣、帰りましょうか」

「ほいほいっす。……あ、そだ! ちょっと学生街寄っていっていいすか? 洗剤切らしちゃって」

「うーん……でも寄り道になっちゃいますよね。一度帰ってからにしませんか?」

「ぬぬ、この優等生め! ていていっ!」

「あ、こら、背中突っつかないで。ブラのホックが……も、もうわかりました。今日だけですよ?」

「わーい、凪っち大好きー!」


 そんな微笑ましい会話をしながら、二人は教室から出て行った。


 ……でも、何で教室に残っていたんだろう。何か用事とかあったのかな?


「愛されてんなぁ、オイ」

「?」


 和樹がニヤニヤしている理由がわからない。


「「「…………」」」


 仲間たちが無言で武器を手に取り始めた理由も。


 なぜか俺を睨みつけて。


「さ、さて。改めて……ありがとうみんな」


 返答はない。

 ただ、武器を手にゆっくりと歩み寄ってくる。


 眼光が鋭さを増していることから間違いない、狙いは俺だ。なぜかはわからないけど……。


 というか、俺にもしものことがあったらマズいんじゃないの?


 色々とツッコみたいところはあるけど、今は言葉を続けよう。


「それで助けてくれたついでで申し訳ないんだが、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」


 仲間たちは相変わらず何も言わない。


 聞こえるのは、足音と揺れ動く武器の鈍い音だけだ。


 ……この学校、野蛮な生徒多すぎない?


「実は、情報の漏洩が怖くてみんなに話さなかったんだけど――」

「うるせえ! テメェの頼みなんざ聞けるかあッ!」

「くたばれ無自覚クソハーレム野郎ッ!」

「――テストの解答を盗もうと考えているんだ」

「「協力しよう」」


 なんて変わり身の早さだ。助かるけど。


 ……しかしエロ本だけじゃなく、風呂覗きの力も素晴らしい。


 何に対しても意欲的じゃない現代の日本男児を奮い立たせるために、ぜひ競技化すべきだ。


「ったく、そういうことは先に言えよな!」

「水臭いぜ、お前の頼みを断るわけがないだろ?」

「その通りだ。俺たちは仲間なんだからよ」

「み、みんな……!」


 ……そうだ、俺は一人じゃない。みんながいる。


 エロ本と風呂覗きによって深まった強い絆がある! ときには崩壊することがあるけど!


「……へっ、盛り上がってきたじゃねえの」


 隣を見ると、ニヤつく和樹の姿があった。


 こいつはそのままポケットにしまっていたサングラスとマスクを取り出すと装着し、素顔を隠した。


「ふぅ、やっぱりこの姿が落ち着くぜ」

「そだな、犯罪者は不審な格好が一番だ」

「聞き捨てならねえけど今は置いとくわ。……そんで、どうすんだよ陸?」


 元の不審者に戻った和樹が、そう尋ねてきた。

 だから俺はこう答え、


「「――うわあああああああッ‼」」


 そんな時だ、数人の男子生徒が教室に転がり込んできたのは。


 見れば、先ほど扉を押さえていてくれたクラスメイトたちだった。あのあと一悶着あったのか、制服がボロボロになっている。


 俺たちのために……すまない、そしてありがとう。


「大丈夫か?」

「だ、いじょ、うぶじゃない! ッく、はや、く!」


 必死に叫び、そいつらは扉を指差し始める。


 扉? 扉が何か、



 ドドドドドドドドドドォォッッ‼

「扉を閉めろおおおおおおおおおッ!」


 俺の指示を受け、仲間たちが一斉に扉をしめた。


 間髪入れず、鍵をかける。


 直後だった。豪雨を連想させるような大量で多大な足音が、ボゴォ‼ という爆発音に変わったのは。


 それは、足音の正体が勢いよく扉に激突したからだ。扉は軋むような音を放ち、今にも倒れそうだ。


「防御だ防御! 倒させるな!


 いち早く扉に机を押しつけた姿を見て、仲間たちも続いて同じように机をぶつけていく。


 上にも重ねていき、やっと扉は動きを止めた。


「……マジかよ」


 俺は机の隙間から見える扉の窓を見て、そう言葉をこぼさざるを得なかった。


 そこにはこちらを睨みつけるⅢ組。そして、Ⅰ組の生徒たちの姿があった。……な、何であいつらがこんなところに……?


「お、お前らを逃したあと、急に襲ってきたんだ」

「何だってんだあいつら、初対面だってのにいきなり殴りかかってきやがって……」

「俺たちに何の恨みがあるっていうんだ……」


 女、かな。


 ……多分、Ⅰ組のやつらは前のように隠れていたところ、騒ぎに気づいて駆けつけたんだろう。そこで扉を押さえつける仲間たちの姿を発見したため、襲いかかった。


 そして、Ⅲ組と手を組んだ。


 Ⅲ組とは俺たちを敵視している同士だし、共戦を結ぶのに時間はいらなかっただろうな。


 うーん……しかし絶望的な状況だ、どうしよう。


「ち、ちくしょうっ!」


 悩んでいると、今度は窓際から声が。


 見れば、仲間の一人が外から脱出を試みようとしていた。窓を開きこちらを振り返って、


「こんなところにいられるか! 俺は寮に戻らせてもらう!」

「ああっ、それは今言っちゃいけないセリフ!」


 直後、だった。


 外に回って隠れていただろうⅠ組とⅢ組の連中が、体を起こしたのは。どうやら窓の前で屈みこんでいたらしく、死亡フラグを立てた仲間の一人と鼻が触れ合うくらいの近さで向き合う形となって、


「うわあッ!?」


 驚きのあまり尻餅をついたそいつを見ると、表情をニヤつかせながら窓枠に足を乗せる。


 だから俺は、その敵に体当たりをかました。


「ぐへッ!?」



 叫びを上げた敵と共に、外に転がり落ちる。


 一足先に顔を上げると、廊下ほどじゃないが周囲には敵の姿があった。


 ボキボキと拳を鳴らして、近づいてくる。


「まさかそっちから出てきてくれるとはな」

「さて、それじゃ整形を始めようか」

「あの美女たちを惑わすその顔をズタボロにしてやるぜえ!」


 宣言と同時に、飛びかかってくる一人の男子。


 そいつは真っ直ぐに拳を突き出すと、


「ッ!?」


 俺に届く直前で、ピタリと動きを止めた。


 理由は、俺が盾を構えたからだろう。


 硬くも耐久力もない弱々しい長方形の盾は、本。


 思春期男子の憧れ、エロ本だった。


「き……さ、ま……! なんて汚い真似を……!」

「よく振り抜く直前で止めてくれた。あと少しでこいつに傷がつくところだったよ、っと!」


 言いながら、俺はもう片方の手を後方に突き出す。


「……ぐっ!」


 悔しそうな声。


 別の敵から放たれた蹴りが、またもエロ本の目の前で停止する。残念、気づいていたよ。


 俺はそのままの状態で、ちらりと教室を見る。


 そして和樹と目が……恐らく合った。サングラスでわかり難いっての!


 ため息を吐きながら、俺は体制を立て直す。


 そしてその場で体を回転させ、側にいる敵を仰け反らせる。そして遠心力を利用し、


「ふんっ!」


 手に持ったエロ本を、空高く放り投げた。


 この世の終わりのような悲鳴が、校舎に放たれる。


「うわああっ! なんてことをしやがるッ!?」

「に、人間のやることじゃねえ!」

「このクソ野郎があああああああああッ‼」


 周囲の敵が絶叫しながらエロ本を追いかけていく。


 直後、ガラッ、とⅡ組の教室の窓がすべて開いた。


「チャンスだ! 早くこの場から脱出するぞ!」


 和樹の指示を受け、飛び出してくる仲間たち。


 やつらは一斉に俺の元へ駆け寄り、胸ぐらを掴む。


「な、何やってんだお前ら!?」

「「「うるせえ! ロリコンは黙ってろ!」」」


 仲間たちは和樹にそう言い放つと、俺を鋭い眼光で睨みつけてきた。


「この外道……よくもエロ本を!」

「一瞬でも仲間と思ったのがアホらしいぜ!」

「あいつらの代わりにぶん殴ってやる!」

「待てお前ら! 陸の顔をよく見ろ!」


 和樹の言葉に、仲間たちは俺をジッと見た。


「「「……ハッ!」」」


 そして、全員が目を見開いた。


「こ、こいつ……唇から出血してやがる……!」

「酷い出血量だ……溢れて、顎にまで一筋流れてるぞ……!」

「ま、まさか噛み切ったのか!? エロ本をぞんざいに扱うことなんてできないという反発を殺すために! 人間であることを捨て、残虐非道な鬼と化すために!」


 ……今、説明してくれた通りだ。


 俺は流れ出る血を拭い、仲間たちに告げる。


「俺だって……俺だってこんな真似はしたくない。だが、桃源郷のためだ。本じゃなく、リアルで新鮮な女子の裸体をこの目に収めるため、記憶に残すためにはこうするしかなかったんだ……! すまない、わかってくれ……!」

「……へっ、こんなに感動したのは久方ぶりだな」

「男だぜ、篠崎……!」


 ずず、と鼻をすする音が周囲から聞こえ出す。


 みんな……わかってくれたのか……!


「しんみりしてるとこ悪いけどよ、早くしねえと!」

「ああ、そうだな。じゃあ最後に!」


 俺は血に濡れた拳を天に突き立て、言い放つ。


「この戦い、絶対に勝つぞッ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおッ‼」」」


 待ってろ桃源郷!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ