山の季節
酷いことに、もう冬になった。
木の葉はまた川べりの木の枝の先で、冷え冷えと木枯らしに震えるだろう。そうして流れは黙ったまま澄み、落ちた赤い葉を裏返し表返しして弄ぶだろう。
晴れていない海を見たい。能登の海は波の花を風に散らし、黒々と曇る空と彼方で溶けている。そうして下北の寒空ではウミネコが泣き騒ぐ。不器用な声で岩場に群がり、観光客のエサをねだっている。悲しいほどに純白の羽がそこら中に落ちていた。
温暖の季節に人は冷水を好み、凍てついた冬には火を好む。季節とは二つしかない。冬とその他だ。特別なこの季節とは。最も死に近しいこの凍えと貧しさ。裸を許さない冷徹な意思。己の炎を掻き立てることで必死となり、反っていのちの熱を感じる季節。全ての命は冬に備え、乗り切ることを最大の目的とし、生きることは耐えきることであり、春は勝利の季節となる。降り積もる雪原に森の王がゆっくりと重々しき足跡を残す。遥か聳える樅ノ木が枝を揺すり、どさりと雪の塊を落とす。山の季節が来る。
いつも季節に先を越される。そうして置き去りになった感覚が混乱し、体調がおかしくなる。変化に弱いのだろう。