公開告白
「すっ、好きです……!」
「お、おおーっ!」
「何?なに?」
朝の全校集会が終わり、体育館から吐き出される生徒たちで溢れる一階のエントランスホールで、一人の女子生徒が注目を浴びている。
女子生徒の前には少し間を開けて一人の男子生徒。女子生徒はこの男子生徒がホールに入って来ると同時に前に立ちはだかり、公開告白をしたのだった。
突然の女子生徒の公開告白に、居合わせた周りの生徒たちが物珍しげに好奇の目を向け、状況を確認するように隣同士でひそひそと耳打ちしたり、囃す声を上げたりしている。
「オーケーッ! オレ、イマカノいないから、ヨ・ロ・シ・クーッ!」
騒がしくなるホールで、女子生徒の告白を受けた男子生徒は右腕をビシッと女子生徒の前に伸ばし、握った拳の親指をグッとホールの高い天井へ向けて立ち上げて見せた。
「ふぇ?」
男子生徒の満面の笑みに、間の抜けた声をもらす女子生徒。
「なにちゃん? オレ、君のこと何て呼べばいい?」
茶髪のロン毛の毛先を無造作に散らせて遊ばせている男子生徒が言いながら女子生徒に詰め寄る。
「あっ、あわわ……!?」
女子生徒は慌てて真っ赤になった顔の前にほっそりとした両腕を突き出した。
「へ?」
女子生徒からの思わぬ突っ張りに困惑する男子生徒。
「ご、ごめんなさい! いっ、今の、わっ、わすれてくださいっ!」
女子生徒は抑揚の定まらない震えの混じった声で懇願するように男子生徒に言うと、もつれるようなぎこちない足取りで、ホールに居合わせる生徒たちを避けるように顔を俯かせたまま走って行った……
ーー見ていたーー
「はっ? なに、アイツ?」
ーー露骨に呆れたような声と、ホールから走り去る小さな背中を執拗に追う視線ーー
ーーざわざわと湧き上がる、耳障りの悪い嘲笑ーー
「よくあんなんで、男子と付き合おうなんておもうよなぁ」
ホールからはもう、公開告白をした女子生徒の姿は見えなくなっていたが、「告白」という非日常を目の当たりにした生徒たちの熱は、集団の中で冷めることを許さないとばかりに、ふつふつと炊き上げられているようだった。
「ぜったい顔で選んでるよな、ブスに限って!」
公開告白を受けた男子生徒が校内で五本の指に入るほどの「イケメン」だったこともあり、やっかみ半分、一目見ただけでも「地味で目立たないおとなしい子」との印象を受けさせる女子生徒への露骨な非難と
中傷が飛んでいた。
が、ふっと、空気が変わる。
「オレのことはなんつっても構わねーけど、彼女のこと悪く言うやつは許さねーっ!」
ピリリと怒りのこもったこえが喧騒にわくホールに響いた。声を上げたのは、女子生徒から公開告白を受けた男子生徒だ。
彼は、女子生徒の突然の公開告白により、大勢の生徒たちからの視線が集まる中、「告白をされたのにOKしたら振られた」という理不尽な状況をさらすことになったにもかかわらず、その場にはもういない、告白をしてきた女子生徒をかばうように、彼女を悪く言う言葉が聞こえた先へ、真っ直ぐに進んで行った……
月曜日の朝の、月初めの全校集会の後、各自教室へ向かおうとする生徒たちで溢れたエントランスホールを見下ろせる、二階のラウンジの丸い大きな柱のかげに隠れて、親友のトーコが男子生徒に公開告白をする姿を、ザラメは見ていた。
ーー私はただ、見ていただけだったーー